労働者派遣の「抵触日」とは?事業所単位・個人単位の期間制限をわかりやすく解説
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労働者派遣を受け入れる際、必ず押さえておかなければならないのが「抵触日(ていしょくび)」というルールです。抵触日を正しく理解していないと、知らないうちに労働者派遣法違反の状態になってしまうことがあります。とくに、複数の派遣労働者を時間差で同じ事業所に受け入れているケースでは、抵触日の管理を誤りやすいポイントがいくつもあります。本記事では、抵触日の基本的な仕組みから、複数人を段階的に受け入れた場合の考え方まで、実務に沿って解説します。
1. 抵触日とは何か
抵触日とは、労働者派遣法によって定められた「派遣を受け入れることができる期間の上限に達する日の翌日」を指します。労働者派遣には、同一の派遣先で無制限に派遣労働者を使い続けることができないよう、一定の期間制限が設けられており、この制限に触れる(抵触する)日という意味で「抵触日」と呼ばれています。
抵触日を過ぎてなお同じ派遣労働者を同じ組織単位で受け入れ続けたり、期間制限の延長手続を取らずに派遣を継続したりすると、派遣先・派遣元の双方が労働者派遣法違反となるおそれがあります。
2. 抵触日には2種類ある
抵触日には、「事業所単位」の期間制限と「個人単位」の期間制限という、性質の異なる2つの制限が存在します。この2つを混同してしまうと、複数人を受け入れる場面で管理を誤りやすくなるため、まずそれぞれの違いを整理します。
2-1. 事業所単位の期間制限
同一の事業所において、派遣労働者を受け入れることができる期間は、原則として3年が上限です。この3年は、その事業所で最初に派遣労働者を受け入れた日を起算日として計算され、事業所ごとに1つだけ定まります。誰か特定の労働者に紐づくものではなく、「その場所(事業所)」に対する制限である点が最大の特徴です。
なお、ここでいう「事業所」とは、工場・事務所・店舗など、場所的に独立し、経営単位として一定の独立性を持つ単位を指し、労働保険の適用単位である事業所の概念とおおむね一致します。
2-2. 個人単位の期間制限
個人単位の期間制限は、同一の派遣労働者を、派遣先の同一の「組織単位」で受け入れることができる期間を3年までとするものです。ここでいう組織単位とは、課やグループなど、業務の内容や指揮命令系統から見て、ある程度の独立性を持つ単位(いわゆる「課」レベル)を指し、事業所よりも小さな単位です。
個人単位の抵触日は、派遣労働者ごと、かつ配属される組織単位ごとに個別に発生します。同じ人であっても、異なる組織単位(課)に異動すれば、その組織単位における個人単位の抵触日は新たにカウントが始まります。ただし、これは事業所単位の期間制限を免れるものではなく、事業所単位の抵触日が到来すれば、たとえ個人単位の期間が残っていても、その事業所全体として新たな派遣の受け入れはできなくなります。
3. 複数の派遣労働者を時間差で受け入れた場合の考え方
ご質問にあるように、同じ事業所に複数の派遣労働者を時期をずらして受け入れるケースは、実務上非常によくあります。この場合に注意すべきポイントは、次の2点に整理できます。
3-1. 事業所単位の抵触日は「事業所」に対して1つしかない
事業所単位の期間制限は、あくまで「その事業所」に対する制限です。したがって、後から新しい派遣労働者を追加で受け入れたとしても、事業所単位の抵触日そのものは動きません。事業所単位の抵触日は、その事業所で最初に派遣の受け入れを開始した日を起算点として、一度確定すれば、その後に何人受け入れを追加しても変わらないということです。
これは、派遣先にとって見落としやすいポイントです。「今回新しく受け入れる派遣労働者だから、抵触日はまだ先」と考えてしまいがちですが、実際には既存の事業所単位の抵触日がそのまま適用されます。
3-2. 個人単位の抵触日は労働者ごと・組織単位ごとに別々に発生する
一方、個人単位の期間制限は、派遣労働者ごとに、かつ配属先の組織単位(課)ごとに独立して計算されます。時間差で受け入れた労働者がそれぞれ別の課に配属されている場合は、各労働者の個人単位の抵触日もそれぞれ異なるタイミングで到来します。
具体例で見てみましょう。ある事業所において、最初にAさんを2024年4月1日から受け入れ、その後Bさん、Cさんを順次受け入れたケースを想定します。
| 派遣労働者 | 受入開始日 | 個人単位の抵触日 | 備考 |
| Aさん | 2024年4月1日 | 2027年3月31日 | この事業所における最初の受入 |
| Bさん | 2024年10月1日 | 2027年9月30日 | Aさんと同じ課に半年遅れで配置 |
| Cさん | 2025年4月1日 | 2028年3月31日 | 別の課に配置 |
※上記はいずれも無期雇用派遣労働者等の適用除外に該当しない一般的なケースを前提とした例です。実際の抵触日は受入開始日や組織単位の設定によって異なるため、個別の確認が必要です。
この例では、事業所単位の抵触日は、事業所として最初に派遣を受け入れたAさんの受入開始日(2024年4月1日)を起算点として2027年3月31日に確定し、後から受け入れたBさん・Cさんの存在によって変わることはありません。したがって、Bさんの個人単位の抵触日(2027年9月30日)やCさんの個人単位の抵触日(2028年3月31日)が到来する前であっても、事業所単位の抵触日である2027年3月31日を過ぎればその事業所全体として新たな派遣の受け入れができなくなり、延長手続を取らない限り、Bさん・Cさんの派遣も原則として継続できません。
つまり、複数人を時間差で受け入れている場合、「一番遅く来た人の個人単位の抵触日」を基準に考えてしまうと期間管理を誤ります。事業所単位の抵触日は常に「その事業所で最初に派遣を受け入れた日」を起点に固定されているという点を、派遣先の担当者は必ず押さえておく必要があります。
4. 事業所単位の期間制限を延長する方法(意見聴取手続)
事業所単位の期間制限は、一定の手続を踏めば延長することができます。具体的には、事業所単位の抵触日が到来する1か月前までに、その事業所の過半数労働組合、または過半数労働組合がない場合は労働者の過半数代表者から意見を聴取する必要があります。
● 意見聴取の対象は、その事業所の労働者の過半数で組織する労働組合、または過半数代表者
● 延長できる期間は1回につき最大3年間で、同じ手続を繰り返せば延長を重ねることが可能
● 意見を聴取した書面、聴取した意見の内容、対応方針などは記録し、一定期間保存する義務がある
● 過半数労働組合等から異議があった場合は、対応方針等を説明する義務が生じる
延長の手続を怠ると、事業所単位の抵触日をもって新たな派遣の受け入れができなくなるため、抵触日管理の中でもとくに重要な手続です。
5. 派遣先の通知義務
労働者派遣法第26条により、派遣先は派遣元との間で労働者派遣契約を締結する際、あらかじめ事業所単位の抵触日を派遣元に通知しなければなりません。この通知がなければ、派遣元は派遣労働者を派遣することができません。
通知は書面、ファクシミリまたは電子メールにより行う必要があり、口頭のみでは足りません。延長手続を行った場合も、延長後の抵触日をあらためて派遣元に通知する必要があります。複数の派遣元から労働者を受け入れている場合は、すべての派遣元に対して同一の事業所単位の抵触日を通知することになります。
6. 期間制限の例外となるケース
次のようなケースは、事業所単位・個人単位いずれの期間制限の対象外となります。
● 派遣元に無期雇用されている派遣労働者を派遣する場合
● 60歳以上の派遣労働者を派遣する場合
● 事業の終了時期が明確な有期プロジェクト業務に派遣する場合
● 1か月間の勤務日数が通常の労働者に比べて相当程度少なく、かつ10日以下である業務に派遣する場合
● 産前産後休業・育児休業・介護休業等を取得する労働者の業務を代替するために派遣する場合
これらに該当する派遣労働者を受け入れている場合は、その労働者について抵触日を管理する必要はありませんが、他の労働者を通常の期間制限の対象として受け入れている場合には、その労働者については引き続き抵触日管理が必要です。同じ事業所内に期間制限の対象者と対象外の者が混在するケースもあるため、労働者ごとの取扱いを整理しておくことが重要です。
7. 実務上の注意点・まとめ
● 事業所単位の抵触日は事業所につき1つであり、後から受け入れる労働者が増えても変わらない
● 個人単位の抵触日は労働者ごと・組織単位(課)ごとに別々に発生する
● 事業所単位の抵触日が到来すれば、個人単位の期間が残っていても新たな受け入れは原則できない
● 延長するには、抵触日の1か月前までに過半数労働組合等からの意見聴取手続が必要
● 派遣先は労働者派遣契約締結時に事業所単位の抵触日を派遣元へ書面等で通知する義務がある
● 無期雇用派遣労働者や60歳以上の派遣労働者など、期間制限の対象外となるケースもある
複数の派遣労働者を時間差で受け入れている事業所ほど、「誰の抵触日が基準になるのか」を誤解しやすい傾向があります。事業所単位の抵触日と個人単位の抵触日を分けて管理し、直近の事業所単位の抵触日がいつなのかを常に把握しておくことが、派遣法違反を防ぐための基本です。抵触日の管理体制に不安がある場合や、延長手続の進め方でお困りの場合は、社会保険労務士にご相談いただくことをおすすめします。



