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「2以上事業所勤務」の社会保険手続きと標準報酬月額の算定方法

お知らせ 

副業・兼業やグループ会社間での兼務が広がる中、「複数の会社で同時に社会保険(健康保険・厚生年金保険)の加入要件を満たす」というケースは決して珍しくなくなりました。このようないわゆる「2以上事業所勤務(二以上事業所勤務)」に該当する従業員が発生すると、通常の手続きとは異なる専用の届出や、報酬を合算したうえでの標準報酬月額の算定が必要になります。本記事では、実務担当者が押さえておくべき手続きの流れと、保険料算定の考え方を整理します。


1. 2以上事業所勤務とは
2以上事業所勤務とは、同一の被保険者が同時に複数(2か所以上)の適用事業所に使用され、それぞれの事業所において社会保険の被保険者要件を満たしている状態をいいます。代表的なケースは次のとおりです。
・ 本業とは別に副業先でも社会保険の加入要件(週の所定労働時間・所定労働日数が通常の労働者の4分の3以上など)を満たしている場合
・ 法人の代表者・役員が、複数の会社の役員を兼務している場合
・ 親会社と子会社を兼務しているなど、グループ会社間で二重に加入要件を満たす場合
・ 短時間労働者への社会保険適用拡大(特定適用事業所の企業規模要件は現在、被保険者数51人以上の事業所が対象)により、副業先でも新たに加入要件を満たすようになった場合

ポイント:「すでに他社で社会保険に加入しているから」という理由だけでは、自社での加入義務はなくなりません。各事業所は自社の要件充足を独立して判定する必要があります。

2. 手続きの流れ
2以上事業所勤務に該当する場合の手続きは、おおむね次の流れで進みます。

順序 手続き 内容・ポイント
加入要件の確認 各事業所ごとに、社会保険(健康保険・厚生年金保険)の被保険者要件を満たすかを個別に判定します。
資格取得届の提出 要件を満たす事業所ごとに、通常どおり被保険者資格取得届を提出します。
主たる事業所の選択 被保険者本人が、保険料率や付加給付などを比較のうえ、主たる事業所を選びます。
二以上事業所勤務届の提出 「健康保険・厚生年金保険 被保険者所属選択/二以上事業所勤務届」を、事実発生から10日以内に、選択した主たる事業所を管轄する事務センター(年金事務所)へ提出します。
決定通知書の受領 主たる事業所の管轄年金事務所から、各事業所へ「二以上事業所勤務被保険者決定通知書」等が送付され、按分保険料の内訳が示されます。
給与計算への反映 通知された保険料額を各社の給与ソフトへ手入力で反映します(自動計算では正しい額になりません)。

 

2-1. 二以上事業所勤務届の提出者・提出先・期限
・ 提出者:会社ではなく、被保険者本人が届け出ます。会社側は制度を説明し、提出漏れがないようフォローすることが望まれます。
・ 提出先:被保険者が選択した「主たる事業所」を管轄する事務センター(健康保険組合に加入している場合は、あわせて当該健康保険組合への届出も必要です)。
・ 提出期限:事実発生(2以上事業所勤務に該当することとなった日)から10日以内。
・ 提出方法:電子申請・郵送・窓口持参のいずれか。

注意:届出が遅れると、保険料の徴収・按分が遡って調整されることになり、事業所・本人双方に事務負担が生じます。加入要件を満たした時点で速やかに届け出るよう、日頃から周知しておくことが重要です。

3. 標準報酬月額と保険料の算定方法
2以上事業所勤務者の標準報酬月額は、各事業所から受ける報酬月額を合算して決定されます。決定後、各事業所が負担する保険料は、実際の報酬月額の比率により按分して計算されます(標準報酬月額の比率ではなく、実際の報酬額の比率で按分する点に注意が必要です)。
3-1. 計算例
A社から40万円、B社から20万円の報酬を受けている場合の計算例は次のとおりです。

項目 A B
各社からの報酬月額 40万円 20万円
報酬月額の合計 60万円(40万円+20万円)
決定される標準報酬月額 59万円
各社の按分保険料(月額) 59万円×保険料率×40万円/60万円 59万円×保険料率×20万円/60万円

算出された保険料は、通常の被保険者と同様に、事業主負担分・被保険者負担分をそれぞれの事業所で折半して負担します。合算後の保険料をどちらか一方の事業所がまとめて納付するわけではなく、各事業所が按分額について独立して納付義務を負う点にも留意してください。

補足:健康保険の主選択事業所と厚生年金保険の選択事業所は、必ずしも一致させる必要はありません(協会けんぽと健康保険組合など、保険者が異なる場合)。保険料率や付加給付の内容を比較したうえで、被保険者本人が選択します。

4. 算定基礎届・月額変更届の取扱い
2以上事業所勤務者についても、定時決定(算定基礎届)および随時改定(月額変更届)の手続きは必要ですが、通常の被保険者とは提出方法が異なります。
1. 主たる事業所を管轄する事務センター(または健康保険組合)から、各事業所宛に二以上事業所勤務者専用の算定基礎届・月額変更届の用紙が送付されます。
2. 各事業所は、自社が支払う報酬額のみを記載します(他社分の報酬を記入する必要はありません)。
3. 記載後、選択事業所を管轄する事務センター(または健康保険組合)へ提出します。
4. 提出された各事業所分の報酬が合算され、その年の9月以降(随時改定の場合は改定月以降)の標準報酬月額が決定されます。
5. 決定後、各事業所に「二以上事業所勤務被保険者決定通知書」等により、按分後の保険料額が通知されます。

実務上の注意:随時改定(月額変更届)についても、自社の報酬に固定的賃金の変動があり2等級以上の差が生じた場合はもちろん、他の事業所側で随時改定に該当した場合にも標準報酬月額全体が改定されます。他社側の改定によって自社の保険料額が変わることがあるため、決定通知書の到着を見落とさないよう注意が必要です。

5. 実務担当者が押さえておきたいポイント
・ 届出は被保険者本人が行うものですが、期限徒過による遡及調整を避けるため、会社側から制度と期限(10日以内)を案内することが望まれます。
・ 給与計算ソフトでは二以上事業所勤務者の保険料は自動計算されないことが一般的です。決定通知書の金額を都度、手入力で反映する運用にしておく必要があります。
・ 算定基礎届・月額変更届は通常の様式ではなく、事務センター・健康保険組合から送付される二以上事業所勤務者専用の様式を使用します。
・ 健康保険証(マイナ保険証)の利用登録も、選択した主たる事業所側で切り替わります。非選択事業所側の資格確認書は返却が必要になる場合があります。
・ 加入している健康保険組合によって手続き方法や必要書類が異なる場合があるため、該当者が発生した際は早めに保険者へ確認することをお勧めします。


まとめ
2以上事業所勤務者への対応は、①各事業所での要件確認、②被保険者本人による届出、③報酬合算による標準報酬月額の決定、④按分保険料の給与計算への反映という一連の流れを正確に行う必要があり、通常の社会保険手続きに比べて実務負担が大きくなりがちです。副業・兼業を認める企業や、グループ会社間で役員・従業員を兼務させるケースが増えるなか、該当者の発生を早期に把握し、届出漏れや保険料算定の誤りを防ぐ体制を整えておくことが重要です。手続きにご不安がある場合は、社会保険労務士へのご相談もご検討ください。

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