労災保険の様式第5号・6号・7号とは? 使い方と手続きの流れを社労士が解説
お知らせ
労働者が仕事中にケガや病気を負った場合(業務災害)、労災保険から治療費の補償(療養補償給付)を受けるためには、「様式第5号」「様式第6号」「様式第7号」を使用します(通勤中の災害である「通勤災害」の場合は、これらとは番号の異なる様式第16号の3・16号の4・16号の5を使用します。詳しくは6章で解説します)。この3つの様式(5号・6号・7号)は同列の選択肢ではありません。まず初診時に、受診先が労災指定医療機関かどうかで様式5号・様式7号のどちらかを選び、その後、指定医療機関を変更(転院)する必要が生じた場合に限り、様式6号を追加で提出するという順序関係にあります。誤った様式を使用したり、6号の提出が必要な場面で見落としたりすると、給付が遅れたり、従業員が治療費を立て替えたままになってしまったりするおそれがあります。本記事では、それぞれの様式の役割と提出までの流れを、実務担当者の方にも分かりやすく整理します。
1. 療養(補償)給付の基本的な考え方
労災保険の療養(補償)給付は、業務災害または通勤災害によるケガ・病気の治療にかかる費用を補償する制度です。様式の使い分けは、大きく2つの場面に分けて考えると整理しやすくなります。
・ 場面①(初診時):労災指定医療機関を受診すれば様式5号、指定医療機関以外を受診すれば様式7号を提出する
・ 場面②(転院時):様式5号で治療を開始したあと、別の指定医療機関へ転院する場合に、様式6号を追加で提出する
つまり様式6号は、様式5号を提出して治療を受けている労働者が転院するときに初めて登場する書類であり、5号・7号のような「初診時にどちらか一方を選ぶ」書類とは性質が異なります。この順序を押さえておくと、様式の使い分けで迷いにくくなります。
2. 様式第5号:労災指定医療機関を初めて受診するとき
2-1. 様式第5号とは
正式名称は「療養補償給付及び複数事業労働者療養給付たる療養の給付請求書」です。労災病院または労災指定医療機関で、業務災害によるケガ・病気の治療を初めて受ける際に使用します。この様式を受診先の窓口に提出することで、治療費の自己負担なく(現物給付)治療を受けられます。
2-2. 手続きの流れ
1. 従業員から労災事故(業務災害)の発生報告を受ける
2. 労災指定医療機関を受診するよう案内する(健康保険証は使用しない)
3. 会社側で事業所・災害発生状況等の必要事項を様式第5号に記入する
4. 原本を被災労働者に渡し、受診先医療機関の窓口へ提出してもらう(会社控えとして写しを保管)
5. 医療機関から労働基準監督署へ費用が請求され、窓口負担なく治療が継続される
| ポイント:様式5号は「病院に提出する」書類であり、労働基準監督署へ直接提出するものではありません。提出が遅れると、いったん自費で立て替える扱いになる医療機関もあるため、受診後できるだけ早く提出することが重要です。 |
3. 様式第6号:受診中の医療機関を変更するとき(様式5号のあとに必要になる書類)
3-1. 様式第6号とは
正式名称は「療養補償給付及び複数事業労働者療養給付たる療養の給付を受ける指定病院等(変更)届」です。様式5号を提出してすでに治療を受けている労災指定医療機関から、別の労災指定医療機関へ転院する場合に、様式5号に続けて提出します。転居、専門的な処置が必要になった場合の転院、リハビリ専門病院への転院などが典型例です。なお、転院の予定がなければ様式6号を提出する必要はなく、あくまで転院が発生したときにのみ必要となる書類です。
3-2. 手続きの流れ
1. 転院の必要性が生じたら、転院理由を明確にする(担当医の意向のみなど客観性に欠ける理由は避ける)
2. 様式第6号に、これまでの受診状況と転院先の情報、転院理由を記入する
3. 転院先の労災指定医療機関の窓口へ提出する
4. 転院先でも様式5号のときと同様、窓口負担なく治療を継続できる
| ポイント:様式6号はあくまで「指定医療機関から指定医療機関への変更」に使う様式です。指定医療機関以外を受診する場合は対象外となり、様式7号での費用請求になります。 |
4. 様式第7号:労災指定医療機関以外を受診したとき
4-1. 様式第7号とは
正式名称は「療養補償給付及び複数事業労働者療養給付たる療養の費用請求書」です。業務災害に遭い、緊急時などやむを得ず労災指定医療機関以外を受診した場合や、労災指定を受けていない薬局で薬剤の処方を受けた場合に使用します。様式5号・6号とは異なり、いったん治療費の全額を自己負担したうえで、後日、労働基準監督署に請求して払い戻しを受ける「費用償還」の方式です。
4-2. 手続きの流れ
1. 非指定の医療機関を受診し、治療費を一旦全額自己負担で支払う(領収書を必ず保管)
2. 様式第7号に必要事項を記入し、診療内容証明欄について医療機関に証明を依頼する
3. 領収書等の必要書類を添付し、事業場を管轄する労働基準監督署へ提出する
4. 労働基準監督署の審査を経て、被災労働者本人の口座に費用が振り込まれる
ポイント:様式7号は病院提出ではなく労働基準監督署への提出です。様式5号(病院提出)と混同しやすいため注意してください。また、非指定の病院を受診した後、指定薬局で薬を受け取った場合は、病院分は様式7号、薬局分は様式5号というように、受診先ごとに様式を使い分ける必要があります。
4-3. 様式第7号の枝番号(受診先による違い)
様式第7号には、費用を請求する相手先の種類によって(1)〜(5)の枝番号があります。
| 様式番号 | 対象となる受診先 | 備考 |
| 様式第7号(1) | 病院・診療所 | 最も一般的なケース |
| 様式第7号(2) | 薬局 | 処方箋による薬剤費のみ立て替えた場合 |
| 様式第7号(3) | 柔道整復師 | 骨折・脱臼等の施術 |
| 様式第7号(4) | はり師・きゅう師・あん摩マッサージ指圧師 | 医師の同意が必要な場合あり |
| 様式第7号(5) | 訪問看護事業者 | 在宅療養時の訪問看護費用 |
4-4. 健康保険で受診してしまった場合の切替え手続き
実務では、労災であることに気づかなかったり、とっさに健康保険証を提示して受診してしまったりするケースが少なくありません。この場合の対応は、医療機関側の処理状況によって次の2パターンに分かれます。
ケース1:レセプト処理前で、まだ切替えができる場合
受診から時間が経っておらず、医療機関側で健康保険のレセプト(診療報酬明細書)がまだ保険者へ請求されていない段階であれば、病院窓口へ連絡し、健康保険から労災保険への切替えを依頼します。医療機関側でレセプトの取消しと労災保険への請求への切替えが行われ、窓口で支払った自己負担分(3割)の返金を受けることで手続きが完了します。この場合は、通常どおり様式第5号(すでに転院している場合は様式第6号)を医療機関へ提出します。
ケース2:レセプト処理済みで、切替えができない場合
一方、医療機関側で既に健康保険へのレセプト請求が完了しているなどの理由により、「今からは労災への切替えができない」と言われることがあります。この場合は、いったん医療費の全額を本人が自己負担したうえで、様式第7号(1)を労働基準監督署へ提出して費用請求する扱いになります。
1. 加入している健康保険組合または協会けんぽへ、労働災害であった旨を報告する
2. 「医療費返納の通知」と納付書が届いたら、健康保険が負担していた分(通常7割相当)を金融機関で納付する
3. 様式第7号(1)に必要事項を記入し、事業主証明・担当医師の証明を受ける
4. 返納金の領収書と、窓口で支払った自己負担分(3割)の領収書をあわせて添付し、事業場を管轄する労働基準監督署へ提出する
| ポイント:健康保険への返納が経済的に難しい場合、返納が完了する前でも労災保険へ請求すること自体は可能です。返納と労災請求を並行して進められるケースもあるため、従業員の負担が大きい場合は早めに労働基準監督署へ相談することをおすすめします。 |
5. 3様式の使い分け一覧
様式5号・7号は「初診時にどちらを使うか」、様式6号は「その後、転院する場合に追加で使うもの」という位置づけです。
| 様式 | 使用する場面 | 正式名称(要旨) | 提出先 | 給付の形 |
| 5号 | 労災指定医療機関を初めて受診するとき | 療養補償給付たる療養の給付請求書 | 受診した病院・薬局の窓口 | 現物給付(窓口負担なし) |
| 6号 | 指定医療機関を転院・変更するとき | 指定病院等(変更)届 | 変更後の病院・薬局の窓口 | 現物給付(窓口負担なし) |
| 7号 | 指定医療機関以外を受診したとき | 療養の費用請求書 | 所轄の労働基準監督署 | 費用償還(一旦立替) |
6. 実務上の注意点
・ 受診時は健康保険証を使用しない:労災と健康保険は別制度のため、誤って健康保険証を使用すると、いったん保険者へ返還したうえで労災保険への切替手続きが必要になり、手続きが煩雑化します(切替えの具体的な流れは4-4をご参照ください)。
・ 通勤災害の場合は様式番号が異なる:業務災害の様式5号・6号・7号に対応する通勤災害用の様式は、それぞれ様式第16号の3、様式第16号の4、様式第16号の5となります。原因(業務災害か通勤災害か)を正確に判断したうえで様式を選ぶ必要があります。
・ 様式8号との混同に注意:様式5号・6号・7号は治療費(療養(補償)給付)に関する様式である一方、休業4日目以降の賃金補償にあたる休業(補償)給付は様式第8号を使用する、まったく別の手続きです。
・ 書類は3年間保存:労災保険関係の書類は、原則として3年間の保存義務があります。
7. まとめ
労災保険の療養(補償)給付は、まず初診時に「労災指定医療機関を受診したか」で様式5号・様式7号のどちらを使うかが決まり、その後「転院が発生したか」によって様式6号の要否が決まる、という2段階の考え方で整理すると分かりやすくなります。様式の選択を誤ると、従業員に一時的な費用負担が生じたり、給付が遅れたりする可能性があるため、労災事故発生時には迅速かつ正確な様式選択と手続きが求められます。手続きに不安がある場合は、専門家である社会保険労務士へのご相談をおすすめします。



