訪問介護の特定事業所加算とは?算定要件と届出手続きを社労士が解説

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訪問介護の特定事業所加算の算定要件と届出手続き

お知らせ 

はじめに
訪問介護事業所の経営において、特定事業所加算は基本報酬に最大23%の上乗せが見込める最重要加算のひとつです。令和6年度の介護報酬改定で基本報酬が引き下げられた訪問介護事業者にとって、収益確保のためにも算定の検討は避けて通れません。

もっとも、要件は体制要件・人材要件・重度者等対応要件の3つに分かれ、合計14項目に及ぶ複雑な構造となっています。また、いったん算定を開始しても、要件を継続して満たせない場合には算定取下げや返還リスクがあります。

本記事では、これから特定事業所加算の取得を検討している訪問介護事業所向けに、各区分の単位数、算定要件、届出手続きの流れ、運用上の注意点まで、社会保険労務士の視点から実務的に解説します。

1. 特定事業所加算とは
特定事業所加算は、専門性の高い人材の確保、サービスの質の向上、重度者への対応に取り組む訪問介護事業所を評価する制度です。介護保険法に基づき、所定単位数に区分に応じた割合(3%~20%)を上乗せして算定します。

介護保険法における特定事業所加算の対象サービスは、訪問介護と居宅介護支援の2サービスのみです。次の点に注意してください。

・介護予防・日常生活支援総合事業の訪問型サービスは対象外
・障害者総合支援法の居宅介護・重度訪問介護等の特定事業所加算は介護保険とは別制度(要件・区分とも異なる)
・令和6年度改定で創設された加算(Ⅴ)は、加算(Ⅰ)~(Ⅳ)と併算定が可能

2. 加算区分と加算率
訪問介護の特定事業所加算は(Ⅰ)~(Ⅴ)の5区分です。最上位の加算(Ⅰ)と新設の加算(Ⅴ)を併算定すれば、所定単位数の23%を上乗せ算定できます。

区分 加算率 併算定の可否 位置づけ
特定事業所加算(Ⅰ) 所定単位数の20% Ⅱ~Ⅳとの併算定不可/Ⅴと併算定可 最上位区分。要件が最も多い
特定事業所加算(Ⅱ) 所定単位数の10% Ⅰ・Ⅲ・Ⅳとの併算定不可/Ⅴと併算定可 人材要件重視型
特定事業所加算(Ⅲ) 所定単位数の10% Ⅰ・Ⅱ・Ⅳとの併算定不可/Ⅴと併算定可 重度者対応+人材要件型
特定事業所加算(Ⅳ) 所定単位数の3% Ⅰ~Ⅲとの併算定不可/Ⅴと併算定可 人材要件のみ(軽め)
特定事業所加算(Ⅴ) 所定単位数の3% Ⅰ~Ⅳのいずれとも併算定可(最大23%) 中山間地域等への継続提供

加算(Ⅰ)~(Ⅳ)は、いずれか1区分のみの算定となります(重複算定は不可)。加算(Ⅴ)のみ、(Ⅰ)~(Ⅳ)のいずれとも併算定が可能です。

3. 算定要件の全体像
算定要件は次の3カテゴリーに分かれます。

・【体制要件】:研修・会議・指示報告・健康診断・緊急時対応・看取り期対応など、事業所の運営体制に関する要件
・【人材要件】:訪問介護員等の有資格者割合、サービス提供責任者の実務経験、勤続年数など、人員配置に関する要件
・【重度者等対応要件】:要介護4・5の利用者割合、看取り期対応実績など、サービス対象者に関する要件
以下、令和6年度改定後の算定要件を区分別にマトリクス表で示します。「●」は必須、「○」は選択式の要件です。

算定要件(概要)
訪問介護員等・サ責ごとの個別研修計画の作成・実施
利用者情報・留意事項の伝達等を目的とした会議(概ね月1回以上)
サ責から訪問介護員等への文書等による指示・サービス提供後の報告
健康診断等の定期的な実施
緊急時等における対応方法の明示
看取り期対応体制(病院・診療所・訪問看護STとの24時間連絡体制、看取り期対応方針の策定、職員研修の実施等)
利用者の状況に応じた訪問介護計画の随時見直し(関係者の共同による)
【人材】訪問介護員等のうち介護福祉士30%以上、又は介福・実務者研修等修了者50%以上
【人材】サービス提供責任者全員が3年以上の実務経験者である介護福祉士、又は5年以上の実務経験者である実務者研修修了者等
【人材】常勤サ責を配置し、人員基準を上回る常勤サ責を1人以上配置(⑪⑫の択一)
【人材】訪問介護員等のうち勤続年数7年以上の者が30%以上
【重度者等】利用者総数のうち要介護4・5、認知症日常生活自立度Ⅲ・Ⅳ・M、たんの吸引等を必要とする者が20%以上
【重度者等】看取り期の利用者への対応実績が1人以上(⑥とセット)
中山間地域等に居住する利用者への継続的サービス提供(1月平均1人以上)

【選択式要件の組合せ】

  • 加算(Ⅰ):重度者等対応要件は⑫(重度者20%以上)単独、又は⑥+⑬(看取り期体制+実績1人以上)のいずれかで充足
  • 加算(Ⅲ):人材要件は⑧又は⑨を満たし、かつ⑩又は⑪のいずれかで充足。重度者要件は加算(Ⅰ)と同様
  • 加算(Ⅳ):⑩又は⑪のいずれかで充足

4. 主要な算定要件の実務ポイント
4-1. 個別研修計画(要件①)
登録ヘルパーを含むすべての訪問介護員等とサービス提供責任者について、個別に研修計画を作成する必要があります。計画には次の事項を盛り込みます。

・研修の目的・内容
・研修期間・実施時期
・内部研修・外部研修の区分
計画策定は概ね1年に1回以上が基本です。職員ごとの技能や経験に応じて柔軟に期間を設定できます。

4-2. 会議の定期開催(要件②)
利用者情報の伝達・サービス提供上の留意事項の共有を目的とした会議を、概ね月1回以上開催します。サービス提供責任者が主宰し、すべての訪問介護員等が参加することが原則です。テレビ電話装置等(リアルタイムで画面を介したコミュニケーションが可能な機器)の活用が認められています。

4-3. 指示・報告体制(要件③)
すべての訪問について、サービス提供責任者から訪問介護員等への事前指示と、訪問介護員等からサ責への報告を文書等で行う必要があります。実務上、最も負担の重い要件とされています。記録の方式は文書・電磁的方法・口頭のいずれも可ですが、内容と日時が後から確認できる形で残すことが運営指導対策として重要です。

4-4. 看取り期対応体制(要件⑥)
令和6年度改定で要件が見直されました。次のすべてが必要です。

・病院・診療所・訪問看護ステーションの看護師との連携による24時間連絡体制の確保
・看取り期における対応方針の策定
・看取りに関する職員研修の実施
「24時間連絡できる体制」は、事業所内で訪問介護員等が常時勤務することまでは求められません。夜間でも連携先の訪問看護ステーション等に連絡でき、必要時には事業所からの緊急呼び出しに応じて出勤する体制があれば足ります。

4-5. 人材要件(要件⑧⑨⑩⑪)
各種割合は次のいずれかの実績で算定します。

・前年度(3月を除く11か月間)の1月当たり実績の平均
・届出日の属する月の前3か月の1月当たり実績の平均
常勤換算方法での算定が必要です。なお、勤続年数7年以上の判定は、同一法人内での通算が可能です。訪問介護員以外の職種で従事していた期間も含めて差し支えありません。

4-6. 重度者等対応要件(要件⑫⑬)
加算(Ⅰ)(Ⅲ)の重度者等対応要件は、次のいずれかで充足します。

・要件⑫:利用者総数のうち、要介護4・5、認知症日常生活自立度Ⅲ・Ⅳ・M、たんの吸引等を必要とする者が合計20%以上
・要件⑥+⑬:看取り期対応体制(要件⑥)を整備し、かつ看取り期の利用者への対応実績1人以上(要件⑬)

看取り期対応実績は、前年度に実績がなくとも、対応が発生した翌月から算定可能です。ただし3か月以上連続で実績がない場合は次月から算定できません。前年度中に一度でも実績があれば、当該年度中は通年算定が可能です。

5. 届出手続きの流れ
特定事業所加算の算定には、事業所所在地の指定権者(都道府県又は市区町村)への届出が必要です。届出受理後の翌月又は翌々月(提出日により異なる)から算定が開始されます。

ステップ 内容 ポイント
STEP 1 算定区分の決定 自事業所の人員構成・利用者構成を整理し、どの区分なら継続的に要件を満たせるかを判定します。最上位を狙うより、確実に維持できる区分から始めるのが定石です。
STEP 2 体制整備・根拠書類の準備 研修計画、会議録、指示・報告記録、健康診断記録、緊急時対応マニュアル、看取り期対応方針、人材要件の算出資料などを整備します。要件は「ある」ことだけでなく「証跡として残っている」ことが運営指導で確認されます。
STEP 3 人材要件・割合要件の算定 介護福祉士割合、勤続年数7年以上の割合、重度者割合などは「前年度(3月を除く11か月)の平均」又は「届出日の属する月の前3か月の平均」で算出します。常勤換算方法での計算が必要です。
STEP 4 届出書類の作成 「介護給付費算定に係る体制等に関する届出書」「介護給付費算定に係る体制等状況一覧表」に加え、「特定事業所加算(Ⅰ)~(Ⅳ)に係る届出書」(別紙9)、必要に応じて「特定事業所加算(Ⅴ)に係る届出書」(別紙9-2)、「重度要介護者等対応要件の割合に関する計画書」(別紙9-3)を作成します。
STEP 5 指定権者へ届出 事業所所在地の指定権者(都道府県又は市区町村)へ提出します。原則として「電子申請・届出システム」での提出が推奨されています。算定開始月の前月15日(自治体により末日まで)が一般的な期限です。
STEP 6 算定開始・継続管理 算定開始後も毎月の要件充足を継続的に確認します。職員の入退職、利用者構成の変化で要件を満たさなくなった場合は速やかに変更届を提出する必要があります。

5-1. 提出書類
一般的に必要となる書類は次のとおりです(自治体によって様式・添付書類が若干異なります)。

・介護給付費算定に係る体制等に関する届出書(別紙2)
・介護給付費算定に係る体制等状況一覧表(別紙1)
・特定事業所加算(Ⅰ)~(Ⅳ)に係る届出書(別紙9)
・特定事業所加算(Ⅴ)に係る届出書(別紙9-2/加算Ⅴ算定時)
・重度要介護者等対応要件の割合に関する計画書(別紙9-3/加算Ⅰ・Ⅲで重度者割合要件を選択する場合)
・体制要件・人材要件・重度対応要件の各確認書(自治体指定様式)
・根拠書類:研修計画、会議記録、指示報告ルール、健康診断実施記録、緊急時対応マニュアル、看取り期対応方針、職員名簿・資格者証写し、勤務形態一覧表、利用者一覧表など

5-2. 提出期限
多くの自治体では次のような区分で期限が設定されています。

・新たに加算等を算定する場合(加算開始):算定開始月の前月15日まで(自治体により末日まで)
・加算の算定を取り下げる場合:要件未充足が生じた時点で速やかに提出
期日を過ぎて提出された場合(書類不備で期日までに受理されない場合を含む)、算定開始は翌々月以降にずれ込みます。とくに新年度(4月)算定開始の場合は申請集中で審査に時間がかかるため、余裕を持った提出が必要です。

5-3. 提出方法
原則として「電子申請・届出システム」を利用した電子提出が推奨されています。システム障害や、ICT環境が整わずやむを得ない場合は、メール・郵送・持参も受け付ける自治体が大半です。提出先は事業所所在地を管轄する都道府県(指定都市・中核市の事業所はその市)の窓口となります。

6. 算定上の注意点とリスク

注意点 内容
指示・報告の運用負担 すべての訪問について、サ責から訪問介護員等への事前指示と訪問後の報告が必要です。文書・電磁的方法・口頭いずれも可ですが、記録が残ることが原則。最も負荷の高い要件で、ICT化や運用ルールの整備が不可欠です。
要件未充足時の遡及返還 運営指導等で要件未充足が判明した場合、算定済みの加算分の返還を求められることがあります。月次で要件確認の仕組みを構築しておくべきです。
利用者負担額の増加 加算分は利用者負担にも反映されます。算定にあたり利用者・ご家族への説明と同意取得を行い、契約書・重要事項説明書への反映も必要です。
Ⅴの併算定と排他関係 特定事業所加算(Ⅴ)を算定する場合、特別地域加算・中山間地域等小規模事業所加算・中山間地域等居住者サービス提供加算は同時算定できません。算定シミュレーションで有利不利を確認してください。
総合事業の訪問型は対象外 介護予防・日常生活支援総合事業における訪問型サービスは特定事業所加算の対象外です。介護給付分のみが対象となります。

7. 取得戦略の考え方
特定事業所加算は「最上位を取れば最善」ではありません。要件未充足のリスクを抑えながら継続的に算定できる区分から始めるのが定石です。

段階的取得のすすめ
・人材要件のみで算定可能な加算(Ⅳ)(3%)からスタートし、運用を定着させる
・有資格者割合・サ責の実務経験を満たせる体制が整ったら加算(Ⅱ)(10%)に移行
・重度者対応の実績や看取り期体制が整ったら加算(Ⅰ)(20%)を目指す
・中山間地域での提供実績があれば加算(Ⅴ)(3%)を併算定(最大23%)

ICT活用による運用効率化
要件③の指示・報告業務は、すべての訪問について毎回行う必要があるため、紙ベースのみの運用では現場の負担が極めて重くなります。介護ソフト・ヘルパー連絡用アプリ・チャットツールなどの活用で、記録の自動化と省力化を図ることをお勧めします。

8. よくあるご質問
Q1. 加算開始後に職員が退職して人材要件を満たせなくなった場合は?
速やかに変更届を提出し、要件を満たせなくなった月から算定取下げが必要です。要件未充足のまま算定を続けると、運営指導等で返還を求められます。月次の要件チェック体制を整えてください。

Q2. 勤続年数7年の判定で、産休・育休・傷病休暇の期間は除外する?
除外する必要はありません。産前産後休暇、育児休業、介護休業、傷病休暇、母性健康管理措置による休業の期間は、雇用関係が継続しているため勤続年数に含めることができます。

Q3. 加算(Ⅴ)の中山間地域への「継続的な提供」とは?
前年度(3月を除く)又は届出月の前3か月で、1月平均1人以上の中山間地域居住利用者へのサービス提供実績が必要です。なお、事業所から利用者宅までの片道移動距離が7km超の場合に限り対象となります。

Q4. 看取り期の対応実績は具体的にどう判断する?
「看取り期」の定義は厚生労働省Q&A等で明示されています。主治医が回復の見込みがないと判断した状態、又は終末期にあると判断した利用者への訪問介護提供実績が該当します。記録上、医師の判断や本人・家族の意向確認、対応経過が残されていることが運営指導での確認ポイントです。

 

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