健康保険の傷病手当金とは?休職時に会社が確認すべきポイントを社労士が解説
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会社員が病気やケガで働けなくなった場合、収入が途絶えてしまうことがあります。
そのようなときに生活を支える制度の一つが、健康保険の傷病手当金です。
健康保険というと、病院で保険証を提示して医療費の自己負担が原則3割になる制度というイメージが強いかもしれません。しかし、健康保険には、医療費の負担軽減だけでなく、病気やケガで仕事を休んだときの所得保障としての給付もあります。
特に、従業員が私傷病により長期間休職する場合、会社としても傷病手当金の制度を理解しておくことが重要です。
傷病手当金とは
傷病手当金とは、健康保険の被保険者が、業務外の病気やケガにより仕事を休み、給与を受けられない場合に支給される給付です。
たとえば、次のようなケースで対象になる可能性があります。
・私生活上の病気で入院した
・業務外のケガで働けなくなった
・うつ病などの精神疾患により就労不能となった
・がん治療などで一定期間勤務できなくなった
傷病手当金は、労災保険ではなく健康保険から支給される制度です。
そのため、業務上の病気やケガの場合は、原則として労災保険の対象になります。
傷病手当金が支給される主な要件
傷病手当金を受けるためには、主に次の要件を満たす必要があります。
1. 業務外の病気やケガで療養していること
傷病手当金は、業務外の病気やケガが対象です。
仕事中の事故や業務が原因となった病気・ケガについては、健康保険ではなく労災保険の対象となる可能性があります。
2. 仕事に就くことができないこと
単に体調が悪いというだけではなく、医師の意見などにより、仕事に就くことができない状態であることが必要です。
申請書には、医師の証明欄があり、労務不能と認められる期間について記載してもらう必要があります。
3. 連続する3日間を含み、4日以上仕事を休んでいること
傷病手当金には「待期期間」があります。
病気やケガで仕事を休んだ日が連続して3日間あることが必要で、その後の4日目以降の休業日について支給対象となります。
この3日間には、有給休暇、土日祝日などの公休日も含まれる場合があります。
4. 休業した期間について給与の支払いがないこと
傷病手当金は、休業中の生活保障を目的とした制度です。
そのため、会社から給与が支払われている場合には、原則として傷病手当金は支給されません。
ただし、給与の支給額が傷病手当金より少ない場合には、差額が支給されることがあります。
傷病手当金の支給額
傷病手当金の1日あたりの支給額は、原則として次の計算式で算出されます。
支給開始日以前12か月間の各標準報酬月額の平均額 ÷ 30日 × 3分の2
たとえば、標準報酬月額の平均が30万円の場合、概算では次のようになります。
30万円 ÷ 30日 × 3分の2 = 1日あたり約6,667円
1か月単位で見ると、概算で20万円程度の給付になるイメージです。
ただし、実際の支給額は標準報酬月額、加入期間、給与の支払い状況などによって異なります。
支給期間は「通算して1年6か月」に変更されています
従来、傷病手当金の支給期間は、支給開始日から最長1年6か月とされていました。
しかし、令和4年1月1日から制度が改正され、同一の病気やケガについて、支給開始日から通算して1年6か月まで支給される仕組みに変更されています。厚生労働省も、令和4年1月1日から傷病手当金の支給期間が通算化されたと案内しています。
この改正により、途中で職場復帰して傷病手当金が支給されない期間があった場合、その期間を除いて、残りの支給可能期間を利用できるようになりました。厚生労働省の資料でも、途中で就労するなど支給されない期間がある場合、支給開始日から1年6か月を超えても繰り越して支給可能になると説明されています。
たとえば、次のようなケースです。
1.病気で休職し、傷病手当金を受給
2.いったん復職
3.同じ病気で再び休職
4.残っている支給可能期間について、再度傷病手当金を受給できる可能性がある
この点は、メンタル不調やがん治療など、休職と復職を繰り返す可能性があるケースでは特に重要です。
被扶養者や国民健康保険加入者は対象外
傷病手当金は、原則として健康保険の被保険者本人に対する給付です。
そのため、次のような方は対象外となります。
健康保険の被扶養者
国民健康保険の加入者
原則として任意継続被保険者
会社員本人が健康保険に加入している場合の給付であり、家族の扶養に入っている方や個人事業主の方は、原則として対象になりません。
会社が注意すべき実務ポイント
従業員が病気やケガで長期間休む場合、会社は単に「本人が申請する制度」として考えるのではなく、労務管理上の対応もあわせて確認する必要があります。
1. 休職制度の有無を確認する
まず、就業規則に休職制度があるかを確認します。
休職制度がある場合には、次の点を確認する必要があります。
・休職開始の要件
・休職期間
・休職中の賃金の有無
・社会保険料の取扱い
・復職の判断方法
・休職期間満了時の取扱い
傷病手当金の支給期間と、会社の休職期間は必ずしも一致しません。
そのため、会社の就業規則上の休職期間がどのように定められているかを確認することが重要です。
2. 傷病手当金申請書の事業主証明を行う
傷病手当金の申請書には、会社が記入する欄があります。
主に、休業期間、給与の支払い状況、出勤状況などを証明します。
勤怠情報や給与計算の内容と矛盾がないように確認したうえで記入する必要があります。
3. 有給休暇を使うかどうかを確認する
従業員が休み始めた当初、有給休暇を使うケースもあります。
有給休暇を取得して給与が支払われている期間は、原則として傷病手当金は支給されません。
ただし、待期期間の3日間には有給休暇を含めて考えられる場合があります。
有給休暇を先に使うのか、欠勤として傷病手当金を申請するのかは、本人の希望や会社の制度を踏まえて整理する必要があります。
4. 休職中の社会保険料を説明する
休職中で給与が支給されない場合でも、健康保険料・厚生年金保険料は原則として発生します。
会社は、本人負担分の社会保険料をどのように回収するかを事前に説明しておく必要があります。
たとえば、次のような方法が考えられます。
・毎月本人から振り込んでもらう
・復職後の給与から精算する
・賞与がある場合に調整する
後からトラブルにならないよう、休職に入る前に書面やメールで説明しておくと安心です。
5. 復職時の判断を慎重に行う
傷病手当金を受給していた従業員が復職を希望する場合、会社は復職の可否を慎重に判断する必要があります。
特にメンタル不調の場合、本人が復職を希望していても、業務に耐えられる状態かどうかを確認する必要があります。
主治医の診断書だけでなく、必要に応じて産業医や会社指定医の意見を確認し、復職後の勤務時間、業務内容、残業の可否などを検討します。
傷病手当金と休職対応はセットで考える
傷病手当金は、従業員にとって重要な生活保障制度です。
一方で、会社にとっては、休職制度、社会保険料、復職判断、休職期間満了時の対応など、さまざまな実務が関係します。
特に注意したいのは、傷病手当金が支給されるからといって、会社が無期限に休職を認めなければならないわけではないという点です。
休職期間や復職の条件は、原則として就業規則の定めに基づいて判断します。
そのため、就業規則の休職規定が曖昧なままだと、復職時や休職期間満了時にトラブルになることがあります。
まとめ
傷病手当金は、健康保険の被保険者が業務外の病気やケガで働けなくなった場合に、生活を支えるための重要な制度です。
令和4年1月1日からは、支給期間が「支給開始日から1年6か月」ではなく、通算して1年6か月に変更されています。休職と復職を繰り返すケースでは、従来よりも柔軟に給付を受けられる可能性があります。
会社としては、従業員から休職の申出があった場合、傷病手当金の制度だけでなく、就業規則、勤怠管理、社会保険料、復職判断、休職期間満了時の対応まで含めて整理することが重要です。
社会保険労務士・行政書士岩元事務所では、傷病手当金の手続き、休職制度の整備、就業規則の見直し、復職・休職期間満了時の対応についてご相談を承っております。
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