過労死と会社の責任|長時間労働を放置した場合のリスクと企業が行うべき対策
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長時間労働や過重な業務が続くと、従業員の健康に重大な影響を及ぼすことがあります。脳梗塞、心筋梗塞などの脳・心臓疾患を発症し、最悪の場合には死亡に至ることもあります。いわゆる「過労死」です。
過労死は、従業員本人やご家族にとって非常に深刻な問題であるだけでなく、会社にとっても大きな責任問題に発展する可能性があります。労災認定を受けるだけでなく、遺族から損害賠償請求を受けるケースもあり、企業の信用にも大きな影響を与えます。
会社には、従業員が安全かつ健康に働けるよう配慮する義務があります。これを「安全配慮義務」といいます。長時間労働を把握していながら放置していた場合や、健康診断の結果に異常があるにもかかわらず何ら対応しなかった場合には、会社の責任が問われる可能性があります。
過労死とは
過労死とは、業務による過重な負荷が原因となって、脳血管疾患や心臓疾患を発症し、死亡に至ることをいいます。
代表的な疾病としては、次のようなものがあります。
・脳梗塞
・脳出血
・くも膜下出血
・心筋梗塞
・狭心症
・心停止
・重篤な心不全
厚生労働省は、脳・心臓疾患の労災認定基準を定めており、令和3年9月には約20年ぶりに認定基準が改正されました。改正後は、単に労働時間の長さだけを見るのではなく、勤務の不規則性、深夜勤務、出張の多さ、勤務間インターバルの短さ、心理的負荷、作業環境なども含めて総合的に判断されることが明確になっています。
いわゆる「過労死ライン」とは
過労死の労災認定では、長時間労働が重要な判断要素になります。
一般的に、次のような時間外労働がある場合には、業務と発症との関連性が強いと判断されやすくなります。
・発症前1か月間に、おおむね100時間を超える時間外労働がある場合
・発症前2か月から6か月間にわたり、1か月あたりおおむね80時間を超える時間外労働がある場合
また、発症前1か月から6か月間にわたり、1か月あたりおおむね45時間を超える時間外労働がある場合には、時間が長くなるほど業務と発症との関連性が強まるとされています。
ただし、注意すべきなのは、「80時間や100時間を超えていなければ安全」というわけではない点です。
現在の認定基準では、労働時間がいわゆる過労死ラインに近い場合であっても、深夜勤務、休日のない連続勤務、勤務間インターバルの短さ、出張の多さ、精神的緊張を伴う業務などが重なれば、総合的に業務との関連性が判断されます。
会社が問われる責任
従業員が過労死し、業務上災害と認められた場合、会社は労災保険の手続きだけで終わるわけではありません。
会社が長時間労働を防ぐための措置を講じていたか、従業員の健康状態を適切に把握していたか、健康診断や医師の面接指導を実施していたかなどが問題になります。
特に、次のような場合には会社の責任が問われやすくなります。
・長時間労働が常態化していた
・勤怠管理が不十分だった
・実際の労働時間を正確に把握していなかった
・健康診断を適切に受けさせていなかった
・健康診断で異常所見があったのに放置していた
・従業員から体調不良の申出があったのに対応しなかった
・管理職や特定の従業員に業務が集中していた
・36協定の上限を超えるような働き方が行われていた
会社には、労働契約に伴い、従業員の生命・身体等の安全を確保しつつ働けるよう必要な配慮をする義務があります。厚生労働省の資料でも、労働契約法第5条に基づく安全配慮義務が示されています。
健康診断を実施していれば十分とはいえない
会社は、労働安全衛生法に基づき、従業員に定期健康診断を受けさせる必要があります。
しかし、健康診断を実施しているだけでは十分とはいえません。
健康診断の結果、異常所見がある場合には、医師の意見を聴取し、必要に応じて就業場所の変更、作業内容の変更、労働時間の短縮、深夜業の制限などの措置を検討する必要があります。
また、長時間労働者については、医師による面接指導の対象となる場合があります。厚生労働省も、長時間労働者や高ストレス者に対する医師の面接指導について、事業者が就業上の措置を適切に講じられるよう医師が意見を述べる仕組みを案内しています。
つまり、会社としては「健康診断を受けさせたから終わり」ではなく、その結果を踏まえて、実際に労働時間や業務内容を見直すことが重要です。
中小企業でも注意が必要です
過労死や長時間労働の問題は、大企業だけの問題ではありません。
中小企業では、少人数で業務を回しているため、特定の従業員や管理職に仕事が集中しやすい傾向があります。また、勤怠管理が自己申告制になっていたり、残業時間を正確に集計していなかったりすることもあります。
しかし、会社の規模にかかわらず、安全配慮義務は発生します。
「本人が大丈夫と言っていた」
「管理職だから労働時間の管理は不要だと思っていた」
「忙しい時期だけだから仕方がないと思っていた」
このような理由だけでは、会社の責任を免れることは難しい場合があります。
特に、管理監督者であっても健康管理の対象から外れるわけではありません。労働時間の規制が一部適用されない場合でも、会社には健康確保のための配慮が求められます。
会社が行うべき過労死防止対策
過労死を防ぐためには、日頃から労務管理の体制を整えておくことが重要です。
具体的には、次のような対策が考えられます。
1. 労働時間を正確に把握する
まず重要なのは、従業員の労働時間を正確に把握することです。
タイムカード、勤怠システム、パソコンのログ、入退館記録などを活用し、実際の労働時間と申告時間に大きな差がないか確認する必要があります。
2. 長時間労働者を早期に把握する
月45時間、月80時間など、一定の残業時間を超えた従業員を早期に把握できる仕組みを作ることが大切です。
残業が多い従業員については、上司任せにせず、会社として業務量、人員配置、納期、担当範囲などを見直す必要があります。
3. 健康診断と事後措置を徹底する
健康診断を実施するだけでなく、異常所見があった場合の対応まで行うことが重要です。
医師の意見を聴き、必要に応じて労働時間の短縮や業務内容の変更を検討します。
4. 36協定と実際の労働時間を確認する
36協定を締結していても、協定で定めた上限を超えて働かせることはできません。
また、36協定を提出しているだけで安心せず、実際の残業時間が協定の範囲内に収まっているかを定期的に確認する必要があります。
5. 管理職に業務が集中していないか確認する
管理職や責任者に業務が集中している会社は少なくありません。
管理職についても、深夜勤務や休日出勤が続いていないか、体調不良を訴えていないかを確認し、必要に応じて業務分担を見直すことが大切です。
まとめ
過労死は、従業員本人やご家族に取り返しのつかない被害をもたらすだけでなく、会社にとっても重大な法的リスクとなります。
現在の労災認定では、労働時間だけでなく、勤務の不規則性、深夜勤務、勤務間インターバル、心理的負荷なども含めて総合的に判断されます。そのため、会社は単に残業時間だけを見るのではなく、従業員の働き方全体を把握し、健康を害するおそれがないかを確認する必要があります。
長時間労働が続いている、勤怠管理に不安がある、36協定や就業規則の整備ができていないという場合は、早めに専門家へ相談することをおすすめします。
社会保険労務士・行政書士岩元事務所では、労働時間管理、36協定、就業規則の整備、労務トラブル予防に関するご相談を承っております。長時間労働対策や労務管理体制の見直しをご検討の会社様は、お気軽にご相談ください。



