【令和8年8月施行】高額療養費制度が見直されます 企業・従業員が知っておきたいポイント
お知らせ
高額療養費制度は、医療機関等の窓口で支払った1か月分の医療費が一定の自己負担限度額を超えた場合に、その超えた分が払い戻される公的な医療保険の仕組みです。令和8年8月の診療分から、この高額療養費制度の内容が見直されます。制度の持続可能性を確保する観点から自己負担限度額の引き上げが行われる一方、長期療養が必要な方や低所得の方への配慮として、新たに「年間上限」の仕組みが設けられるなど、セーフティネット機能の強化も図られています。今回は、企業の労務担当者や従業員の皆さまに向けて、見直しのポイントと実務上の注意点を整理します。
1. 高額療養費制度とは
高額療養費制度は、同じ月に医療機関や薬局の窓口で支払った自己負担額が、年齢や所得区分に応じて定められた上限額(自己負担限度額)を超えた場合に、その超過分が保険者(協会けんぽ・健康保険組合等)から支給される制度です。長期の入院や高額な治療が必要になった場合でも、家計の医療費負担が際限なく膨らまないようにするための仕組みとして機能しています。
また、直近12か月以内に3回以上高額療養費の支給を受けた場合には、4回目以降の自己負担限度額がさらに引き下げられる「多数回該当」という仕組みも設けられています。
2. 見直しのポイント①:自己負担限度額の引き上げ
今回の見直しでは、70歳未満について現行の5つの所得区分(ア〜オ)が維持されたまま、令和8年8月診療分から月額の自己負担限度額が引き上げられます。引き上げ幅は所得区分によって異なり、高所得層ほど引き上げ幅が大きく、住民税非課税世帯など低所得層については引き上げ幅が抑えられています(令和7年12月に決定された厚生労働省の資料に基づく数値です)。
| 所得区分(70歳未満) | 年収目安(標準報酬月額) | 現行の月額上限 | R8.8〜の月額上限 | 引き上げ額 |
| 区分ア | 約1,160万円〜 (標報83万円〜) | 252,600円 +1%(医療費-842,000円) | 270,300円 +1%(医療費-901,000円) | +17,700円 |
| 区分イ | 約770万〜1,160万円 (標報53万〜79万円) | 167,400円 +1%(医療費-558,000円) | 179,100円 +1%(医療費-597,000円) | +11,700円 |
| 区分ウ | 約370万〜770万円 (標報28万〜50万円) | 80,100円 +1%(医療費-267,000円) | 85,800円 +1%(医療費-286,000円) | +5,700円 |
| 区分エ | 〜約370万円 (標報26万円以下) | 57,600円 | 61,500円 | +3,900円 |
| 区分オ | 住民税非課税世帯 | 35,400円 | 36,900円 | +1,500円 |
なお、直近1年間に3か月以上高額療養費の支給を受けた場合に適用される「多数回該当」の自己負担限度額については、令和8年8月の時点ではすべての所得区分で現行の水準が維持されます。長期にわたり治療を継続している方の負担が急に重くならないよう配慮された形です(なお、年収200万円未満の課税世帯については、令和9年8月から多数回該当の金額がさらに引き下げられる予定です)。
3. 見直しのポイント②:年間上限の新設
今回の見直しでもっとも大きな変更点が、新たに設けられる「年間上限」です。月ごとの自己負担額を積み上げていくと、これまでは多数回該当に該当しない限り負担が高止まりするケースがありましたが、見直し後は、毎年8月から翌年7月までの12か月間の自己負担合計額が所得区分ごとの年間上限に達した場合、それ以降の自己負担分について還付を受けられるようになります。所得区分ごとの年間上限額の目安は次のとおりです。
| 所得区分 | 年収目安 | 多数回該当 (据え置き) | 年間上限(新設・令和8年8月〜) |
| 区分ア | 約1,160万円〜 | 140,100円 | 168万円 |
| 区分イ | 約770万〜1,160万円 | 93,000円 | 111万円 |
| 区分ウ | 約370万〜770万円 | 44,400円 | 53万円 |
| 区分エ | 〜約370万円 | 44,400円 | 41万円 (標報15万円以下の方は令和9年8月以降に償還払い) |
| 区分オ | 住民税非課税世帯 | 24,600円 | 29万円 |
たとえば、年収約370万〜770万円(区分ウ)に該当し、これまで多数回該当には至らなかった方の場合、厚生労働省の試算では、見直し前は年間の自己負担額が57.3万円程度だったケースが、年間上限53.0万円の導入により約4.3万円軽減されるとされています。極めて高額な医療を受けた方(見直し前の年間負担76.7万円程度のケース)では、約23.7万円の軽減になるという試算も示されています。長期にわたり通院・入院を継続する方ほど、年間上限のメリットを受けやすい仕組みといえます。
また、標準報酬月額が15万円以下であることが確認できた方(区分エに該当する低所得層の一部)については、上表の年間上限41万円が適用されますが、システム対応の関係から、実際の還付(償還払い)は令和9年8月以降にまとめて行われる取り扱いとなっています。対象となる従業員には、還付が翌年度にずれ込む可能性がある点をあらかじめ伝えておくと親切です。
4. ご自身の所得区分(適用区分)の確認方法
高額療養費の自己負担限度額は、標準報酬月額に応じた所得区分(ア・イ・ウ・エ・オ等)によって異なります。ご自身やご家族の適用区分は、次の方法で確認できます。
・ マイナポータルにログインし、「健康保険証」→「限度額適用認定証」関連の情報から確認する
・ 会社が日本年金機構へ提出している「被保険者報酬月額算定基礎届・変更届」の内容から確認する
後者は、社会保険の実務を担当する労務担当者や社労士が保有している情報でもあるため、従業員から問い合わせがあった際に事務所として確認・案内できるよう準備しておくと安心です。
5. 企業(労務担当者)が押さえておきたい実務ポイント
・ 施行時期は令和8年8月診療分からです。就業規則や社内向けの福利厚生案内、医療保険制度の説明資料を利用している場合は、内容の更新が必要になります。
・ 限度額適用認定証の利用や高額療養費の申請手続きについて、従業員から相談を受けるケースが増えることが想定されます。窓口対応の流れや協会けんぽ・健康保険組合への確認方法を、あらかじめ整理しておきましょう。
・ 標準報酬月額が低い従業員については、年間上限41万円の適用対象となる可能性があるため、算定基礎届・月額変更届の内容を正確に管理しておくことが、従業員への正しい案内にもつながります。
・ 傷病手当金など他の給付制度と合わせて、長期療養が必要になった従業員への総合的なサポート体制を整えておくことも重要です。
本コラムは、令和8年8月からの高額療養費制度の見直しについて、公表されている情報をもとに一般的な内容を整理したものです。実際の自己負担限度額や年間上限額、適用区分の詳細は、加入されている医療保険者(協会けんぽ・健康保険組合等)の最新情報をご確認ください。個別の制度適用や手続きについてご不明な点がございましたら、当事務所までお気軽にお問い合わせください。
まとめ
令和8年8月からの高額療養費制度の見直しでは、自己負担限度額が引き上げられる一方、多数回該当の負担水準は維持され、新たに年間上限の仕組みが導入されます。制度全体の持続可能性を確保しつつ、長期療養が必要な方や低所得層への配慮を強化する内容といえます。企業としては、従業員への周知や相談対応、算定基礎届等の適正な管理を通じて、見直し後の制度にスムーズに対応できる体制を整えていくことが求められます。



