残業代の計算から除外できる手当とは?住宅手当・家族手当・通勤手当の判断基準を社労士が解説
お知らせ
従業員の残業代(割増賃金)を計算する際、基本給だけを基礎にして計算していないでしょうか。
残業代の計算では、基本給だけでなく、原則として毎月支給する各種手当も計算の基礎に含める必要があります。
ただし、住宅手当や家族手当、通勤手当など、一定の要件を満たす手当については、割増賃金の算定基礎から除外することが認められています。
注意したいのは、「住宅手当」「家族手当」という名称であれば、必ず除外できるわけではないという点です。
実際の支給条件や計算方法によっては、これらの手当も残業代の計算に含めなければなりません。
今回は、残業代の計算から除外できる手当の種類と判断基準について、具体例を交えて解説します。
1.残業代の計算から除外できる7種類の賃金
労働基準法第37条および労働基準法施行規則第21条では、割増賃金の算定基礎から除外される賃金として、次の7種類を定めています。
- 家族手当
- 通勤手当
- 別居手当
- 子女教育手当
- 住宅手当
- 臨時に支払われた賃金
- 1か月を超える期間ごとに支払われる賃金
これらは例示ではなく、法律で限定的に定められたものです。
そのため、役職手当、資格手当、職務手当、皆勤手当などは、原則として残業代の計算に含めなければなりません。
また、除外対象となるかどうかは、手当の名称ではなく、実際の支給目的や支給条件、計算方法によって判断されます。
2.住宅手当は家賃に応じた支給なら除外できる
住宅手当は、割増賃金の算定基礎から除外できるかどうかについて、特に判断を誤りやすい手当の一つです。
厚生労働省の通達(平成11年3月31日基発第170号)では、除外対象となる住宅手当は「住宅に要する費用に応じて算定される手当」とされています。
除外できる住宅手当の例
次のような支給方法は、原則として割増賃金の算定基礎から除外できます。
① 家賃の一定割合を支給する場合
- 家賃の20%を住宅手当として支給する
- 住宅ローンの月額の一定割合を支給する
② 家賃の金額に応じて段階的に支給する場合
例えば、次のような規定です。
| 月額家賃 | 住宅手当 |
|---|---|
| 5万円未満 | 10,000円 |
| 5万円以上 | 20,000円 |
このように家賃の金額を段階的に区分し、家賃が高くなるにつれて手当額が増える方式も認められています。
東京労働局の資料でも、家賃が5万円以上10万円以下の場合は2万円、10万円を超える場合は3万円を支給する方式が、除外できる住宅手当として紹介されています。
除外できない住宅手当の例
一方、次のような支給方法では、原則として割増賃金の算定基礎から除外できません。
- 住宅費用に関係なく、従業員全員に月額2万円を支給する
- 賃貸住宅に住んでいる従業員には一律2万円、持ち家の従業員には一律1万円を支給する
- 扶養家族がいる従業員には2万円、いない従業員には1万円を支給する
これらは実際の住宅費用に応じて算定されていないためです。
例えば、実家暮らしの従業員を住宅手当の支給対象外としていても、賃貸住宅に住む従業員全員に家賃額に関係なく一律2万円を支給する場合には、原則として除外対象になりません。
重要なのは、単に支給対象者を限定することではなく、実際の住宅費用に応じて手当額が決定されていることです。
住宅手当を除外するための実務上の注意点
住宅手当を割増賃金の算定基礎から除外する場合には、次のような対応が重要です。
- 賃金規程に住宅手当の支給対象者と計算方法を明記する
- 賃貸借契約書等で実際の家賃を確認する
- 家賃の範囲(管理費・共益費等の取扱い)を明確にする
- 転居や家賃変更時に届出を受け、支給額を見直す
なお、現在一律支給している住宅手当を、後から家賃に応じた支給方法に変更した場合、過去の割増賃金まで当然に再計算できるわけではありません。
制度変更前の支給基準と実際の運用を確認する必要があります。
3.家族手当は扶養家族の人数に応じた支給が原則
家族手当についても、名称だけで判断することはできません。
割増賃金の算定基礎から除外できるのは、扶養家族の人数などを基準に算定される手当です。
除外できる家族手当の例
- 扶養配偶者がいる場合は月額10,000円
- 扶養する子ども1人につき月額5,000円
このように、扶養家族の人数等に応じて支給額が決まる場合は、原則として除外できます。
除外できない家族手当の例
例えば、扶養家族がいる従業員に対して、扶養家族の人数に関係なく一律15,000円を支給する場合です。
このような支給方法では、原則として割増賃金の算定基礎に含める必要があります。
「扶養家族がいる従業員だけに支給しているから除外できる」と考えられがちですが、扶養家族の有無だけでなく、人数等に応じた算定方法になっているかが重要です。
4.通勤手当は実際の通勤費用や距離に応じて判断
通勤手当も、支給方法によって取扱いが異なります。
除外できる通勤手当の例
- 電車やバスの定期券代を支給する
- 実際の通勤距離に応じて支給する
- 通勤距離ごとに金額を区分して支給する
これらは、実際の通勤費用や距離に応じて算定されているため、原則として除外できます。
除外できない通勤手当の例
- 通勤距離に関係なく一律月額10,000円を支給する
- 通勤費用に関係なく出勤1日につき300円を支給する
これらは実際の通勤距離や費用に応じていないため、原則として割増賃金の算定基礎に含まれます。
なお、所得税法上の非課税通勤手当の取扱いと、割増賃金の算定基礎から除外できるかどうかの判断は別のものです。
5.その他の除外対象となる手当・賃金
別居手当
転勤等により家族と別居する従業員に対して、別居に伴う負担を補うために支給される手当です。
ただし、名称だけではなく、実際の支給目的や条件によって判断されます。
子女教育手当
従業員の子どもの教育費を補助するため、教育に関する事情に応じて支給される手当です。
こちらも単に「教育手当」という名称であれば除外できるわけではありません。
臨時に支払われた賃金
結婚祝金など、臨時的・突発的な事由に基づいて支給される賃金が該当します。
一方、毎月継続して支払われる手当を、名称だけ「臨時手当」としても除外できません。
1か月を超える期間ごとに支払われる賃金
賞与など、1か月を超える期間ごとに支払われる賃金が該当します。
ただし、毎月の賃金を単に数か月分まとめて支払うような場合には、実質的な賃金の決定方法に注意が必要です。
6.役職手当・資格手当・皆勤手当は原則として除外できない
次のような手当は、原則として割増賃金の算定基礎に含める必要があります。
| 手当の種類 | 原則的な取扱い |
|---|---|
| 役職手当 | 算入する |
| 職務手当 | 算入する |
| 資格手当 | 算入する |
| 皆勤手当・精勤手当 | 算入する |
| 能力手当 | 算入する |
| 営業手当 | 算入する |
| 一律支給の住宅手当 | 算入する |
| 一律支給の通勤手当 | 算入する |
特に注意が必要なのは、役職手当や皆勤手当です。
「管理職だから役職手当は残業代の計算に含めない」「皆勤手当は仕事の内容と関係ないので除外する」といった取扱いは、原則として認められません。
なお、実態として労働基準法上の管理監督者に該当する場合や、固定残業代として適切に区分・支給されている場合などは、別途検討が必要です。
7.手当の取扱いによって残業代はどれくらい変わる?
例えば、次のような給与の従業員がいる場合を考えてみます。
| 給与項目 | 月額 |
|---|---|
| 基本給 | 250,000円 |
| 役職手当 | 30,000円 |
| 住宅手当 | 20,000円 |
| 通勤手当 | 10,000円 |
| 合計 | 310,000円 |
このうち、住宅手当は実際の家賃に応じた支給、通勤手当は実費支給であり、いずれも除外要件を満たしているものとします。
この場合、残業代の算定基礎となる月額賃金は次のとおりです。
250,000円+30,000円=280,000円
住宅手当20,000円と通勤手当10,000円は除外できますが、役職手当30,000円は算定基礎に含めます。
仮に、1年間における1か月平均所定労働時間が160時間、法定時間外労働が月20時間の場合には、次の計算になります。
280,000円 ÷ 160時間 × 1.25 × 20時間
残業代:43,750円
一方、住宅手当が一律支給で除外できない場合は、算定基礎となる月額賃金が300,000円となります。
300,000円 ÷ 160時間 × 1.25 × 20時間
残業代:46,875円
この例では、住宅手当の取扱いだけで、月額3,125円の差が生じます。
この差が複数の従業員について長期間発生すると、未払い残業代として大きな金額になる可能性があります。
※計算例は法定時間外労働の割増率25%を適用したもので、端数処理やその他の条件は簡略化しています。
8.企業が確認しておきたい3つのポイント
① 賃金規程の内容と実際の支給方法が一致しているか
賃金規程に手当の名称や金額が記載されていても、実際の支給方法が異なっていれば、規程の記載だけで除外できるとは限りません。
特に住宅手当や家族手当については、実際の支給条件と計算方法の確認が必要です。
② 給与計算ソフトの設定が正しいか
給与計算ソフトでは、手当ごとに割増賃金の算定基礎に含めるかどうかを設定できるものがあります。
この設定が誤っていると、毎月の残業代が継続的に誤って計算される可能性があります。
新しい手当を導入した際や賃金規程を変更した際には、給与計算ソフトの設定も確認しましょう。
③ 手当の新設・変更時に割増賃金への影響を確認しているか
住宅手当や家族手当を新設・変更する場合には、手当の名称や支給額だけでなく、割増賃金の算定基礎への影響も確認する必要があります。
また、既存の手当の減額や支給条件の変更は、労働条件の不利益変更に該当する場合もあるため、慎重な対応が求められます。
まとめ|残業代から除外できるかどうかは名称ではなく支給実態で判断
残業代の計算から除外できる賃金は、法律で定められた7種類に限られています。
特に住宅手当・家族手当・通勤手当については、名称だけで判断することはできず、実際の費用や扶養家族の人数などに応じた支給方法となっているかが重要です。
会社としては、賃金規程の内容、実際の支給方法、給与計算ソフトの設定が一致しているかを定期的に確認することをお勧めします。
社会保険労務士・行政書士岩元事務所では、賃金規程の作成・変更、各種手当の見直し、給与計算、労務管理に関するご相談に対応しています。
残業代の計算方法や各種手当の取扱いについてお困りの場合は、お気軽にご相談ください。
参考資料・法令
- 労働基準法第37条
- 労働基準法施行規則第21条
- 平成11年3月31日基発第170号(住宅手当の取扱い)
- 厚生労働省「割増賃金を計算する際の基礎となる賃金は何か」
https://www.mhlw.go.jp/bunya/roudoukijun/faq_kijyunhou_24.html - 厚生労働省「割増賃金の基礎となる賃金」
https://www.mhlw.go.jp/new-info/kobetu/roudou/gyousei/kantoku/dl/040324-5a.pdf - 東京労働局「しっかりマスター労働基準法 割増賃金編」
https://jsite.mhlw.go.jp/tokyo-roudoukyoku/content/contents/000501860.pdf



