社会保険 入社月に退職した場合 ~保険料の徴収・資格喪失の取り扱いを正しく理解する~
お知らせ
従業員が入社した月にそのまま退職してしまうケースは、実務上少なくありません。このような場合、社会保険(健康保険・厚生年金保険)の資格取得と資格喪失が同月内に発生するという特殊な状況になります。
この「同月得喪(どうげつとくそう)」の取り扱いは、保険料の徴収方法に独自のルールがあり、給与計算や手続き上で混乱が生じやすい場面の一つです。本記事では、実務担当者が正確に対応できるよう、ポイントをわかりやすく解説します。
【目次】
- 同月得喪とは
- 資格喪失日の考え方
- 保険料はどうなるか
- 実務上の注意点
- 国民健康保険・国民年金との関係
- よくある質問
1. 同月得喪とは
「同月得喪」とは、社会保険の資格取得日と資格喪失日が同一月内に生じることをいいます。
具体的には、たとえば4月1日に入社(資格取得)し、4月20日に退職(資格喪失)するようなケースが典型例です。
| 項目 | 内容 |
| 資格取得日 | 入社日(雇用開始日) |
| 資格喪失日 | 退職日の翌日 |
| 同月得喪の条件 | 取得日と喪失日が同じ月内 |
| 主な発生場面 | 試用期間中の退職、短期雇用後の退職など |
2. 資格喪失日の考え方
社会保険の資格喪失日は、退職日の「翌日」となります。これは健康保険法・厚生年金保険法に定められた原則です。
| 資格喪失日の計算例 |
| 例① 4月30日退職 → 資格喪失日は5月1日(翌月1日) |
| 例② 4月20日退職 → 資格喪失日は4月21日(同月内) |
| 例③ 4月1日退職 → 資格喪失日は4月2日(同月内) |
例②・③のように、資格喪失日が4月中に収まる場合が「同月得喪」に該当します。
なお、月末退職の場合(例①)は翌月1日が喪失日となるため、同月得喪にはならず、通常の月末資格喪失として取り扱います。
3. 保険料はどうなるか
(1)原則:同月分の保険料は徴収が必要
同月得喪の場合、たとえその月の在籍日数が1日であっても、その月分の社会保険料(健康保険料・厚生年金保険料)が1か月分発生します。
したがって、会社は退職する従業員の給与から1か月分の保険料を控除しなければなりません。
(2)厚生年金保険料の例外(2015年10月以降)
2015年(平成27年)10月の被用者年金一元化以降、厚生年金保険料については重要な例外規定が設けられています。
| 厚生年金保険料の返還ルール(重要) |
| 同月得喪となった場合、会社はいったん1か月分の厚生年金保険料を納付する |
| その後、退職者が同月中に国民年金に加入した場合、または他の厚生年金適用事業所に就職した場合 |
| → 年金機構から会社に対して当該月の厚生年金保険料が還付される |
| → 会社は従業員に対してもその分を返還する必要がある |
この処理は年金機構側が職権で行い、後日事業主宛てに通知・還付が行われます。実務上は、退職後しばらくしてから還付通知が届くことが多く、注意が必要です。
(3)健康保険料は返還されない
健康保険料については、上記のような返還制度はありません。同月得喪の場合でも、健康保険料は1か月分が確定的に発生します。
退職後に国民健康保険に加入した場合でも、健康保険料の返還は行われませんので、従業員への説明時にはこの点を明確に伝えることが重要です。
| 保険の種類 | 同月得喪時の扱い |
| 健康保険料 | 1か月分徴収。返還なし |
| 厚生年金保険料 | 1か月分徴収。ただし一定の条件下で返還あり(2015年10月以降) |
| 介護保険料(40歳以上) | 健康保険料と同様、1か月分徴収。返還なし |
4. 実務上の注意点
(1)給与からの控除
退職月の給与が少額である場合、1か月分の保険料を控除しきれないことがあります。その場合は、不足分を退職者から別途回収するか、あらかじめ就業規則・雇用契約書に控除の根拠を明記しておく必要があります。
(2)資格喪失の届出
資格喪失届は、退職日の翌日から5日以内に年金機構へ提出します(健康保険組合加入の場合は各組合の定める期限)。同月得喪の場合も届出の期限は同じですので、速やかに手続きを行いましょう。
(3)健康保険証の回収
退職日には健康保険証(被保険者証)を必ず回収してください。同月得喪で資格喪失後に保険証を使用した場合、不正使用として医療費の返還請求が生じる可能性があります。
(4)厚生年金保険料の還付への対応
厚生年金保険料の還付が行われた場合、会社は元従業員に連絡して返還手続きを行う必要があります。退職者の連絡先を退職時に確認しておくことが重要です。還付通知が届いた時点で既に連絡が取れない状態にならないよう、あらかじめ準備しておきましょう。
5. 国民健康保険・国民年金との関係
同月得喪で社会保険の資格を喪失した後、退職者は以下のいずれかの手続きが必要になります。
- 国民健康保険への加入(退職日の翌日から14日以内に市区町村窓口へ届出)
- 国民年金への加入(退職日の翌日から14日以内に市区町村窓口へ届出)
- 配偶者等の健康保険の扶養に入る
- 任意継続被保険者制度を利用する(退職日の翌日から20日以内に申請)
会社としては、退職者に対してこれらの手続きが必要であることを案内するとよいでしょう。特に、国民年金への加入手続きを退職者が行ったかどうかによって、前述の厚生年金保険料の還付可否にも関係してきます。
6. よくある質問
- 入社当日に退職した場合でも保険料は発生しますか?
- 発生します。1日でも資格取得があれば、その月の保険料(健康保険料・厚生年金保険料)は1か月分が生じます。ただし、厚生年金保険料については前述の返還ルールが適用される場合があります。
- 月末退職の場合は同月得喪になりますか?
- なりません。月末退職の場合、資格喪失日は翌月1日となります。この場合は退職月の保険料が発生し、翌月(喪失月)の保険料は発生しません。これは通常の退職と同じ取り扱いです。
- 同月得喪の場合、雇用保険の手続きはどうなりますか?
- 雇用保険については、31日以上の雇用見込みがない短期雇用の場合は加入対象外となることがあります。ただし、入社時点で31日以上の雇用が見込まれていた場合は加入対象となり、離職票の交付手続きが必要です。雇用保険料については同月得喪という概念はなく、実際に支払った賃金に応じて計算します。
- 従業員に保険料を全額負担させることはできますか?
- できません。社会保険料は事業主と従業員が折半で負担する仕組みです(事業主負担・被保険者負担それぞれ約半額)。従業員に全額を負担させることは法律上認められていません。
まとめ
入社月に退職が生じた場合(同月得喪)の社会保険の取り扱いは、通常の退職時とは異なる点があります。特に保険料の徴収・返還に関するルールは複雑ですので、正確な知識を持って対応することが重要です。
| 同月得喪 実務上のポイント整理 |
| 資格喪失日は退職日の翌日(月末退職の場合のみ翌月1日) |
| 同月得喪でも1か月分の社会保険料が発生する |
| 健康保険料は返還されない |
| 厚生年金保険料は条件次第で年金機構から事業主へ還付される(2015年10月以降) |
| 還付された場合は元従業員への返還が必要→退職時の連絡先確認を忘れずに |
| 資格喪失届は退職日の翌日から5日以内に提出 |
| 退職者には国民健康保険・国民年金の加入手続きを案内する |
社会保険の手続きでお困りの際は、社会保険労務士にご相談ください。当事務所では、社会保険の各種手続きや労務管理に関するサポートを承っております。
※本記事の内容は執筆時点の法令・通達等に基づくものです。法改正等により内容が変わる場合がありますので、最新情報は管轄の年金事務所または社会保険労務士にご確認ください。



