有期雇用契約の「雇用契約書」が無期転換と扶養認定の両方を左右する
お知らせ
2024年4月の労働条件明示義務強化 × 2026年4月の扶養認定ルール化—中小企業が今すぐ確認すべきこと
| 【関連する主な根拠法令・通知】
・労働契約法第18条(無期転換ルール) ・労働基準法施行規則(令和5年厚生労働省令第39号)——2024年4月施行、労働条件明示の追加義務 ・短時間労働者及び有期雇用労働者の雇用管理の改善等に関する法律(パートタイム・有期雇用労働法) ・保保発1001第3号・年管管発1001第3号(令和7年10月1日付)——健康保険扶養認定における年間収入の取扱い |
パートや契約社員を雇用している事業主の方に、今すぐ確認していただきたい重要なポイントがあります。
2024年4月から、有期雇用労働者の契約締結・更新時に「労働条件通知書に記載すべき事項」が増えました。そして2026年4月からは、健康保険の被扶養者(扶養家族)の認定において、「雇用契約書(労働条件通知書)の記載内容」が判定の基礎となる新ルールが始まります。
この2つの制度改正は一見別々のテーマに見えますが、雇用契約書の内容が正確かどうかというただ一点で深くつながっています。契約書の記載が不正確・不十分であると、無期転換の手続きトラブルと扶養認定の問題が同時に発生するリスクがあります。本稿では、その「つながり」を軸に実務対応を解説します。
1.有期雇用をめぐる2つの制度改正—それぞれの概要
(1)無期転換ルールと2024年4月の労働条件明示義務強化
労働契約法第18条の「無期転換ルール」は、同一使用者との有期労働契約が通算5年を超えた場合に、労働者の申込みにより無期労働契約に転換されるルールです(2013年4月施行)。
さらに2024年4月からは、労働基準法施行規則の改正により、有期雇用労働者に対する労働条件の明示事項が以下のとおり追加されました。
| 追加された明示事項 | 内容・対象 |
|---|---|
| 就業場所・業務の変更の範囲 | 全労働者(無期・有期共通)。将来の配置転換等により変わり得る範囲を明示 |
| 更新回数・通算期間の上限 | 有期雇用労働者が対象。上限を定める場合はその理由も契約更新時に説明が必要 |
| 無期転換申込機会の明示 | 無期転換申込権が初めて発生する契約更新のタイミングで書面による明示が義務化 |
| 無期転換後の労働条件 | 転換後の労働条件(賃金・労働時間等)を申込権発生の更新タイミングで明示 |
とくに重要なのは最後の2点です。無期転換後の賃金・労働時間を雇用契約書に明記することが義務となっています。この「書かれた数字」が、次に説明する扶養認定に直接影響します。
(2)2026年4月からの健康保険扶養認定—「雇用契約書ベース」への転換
2026年4月1日から、健康保険の被扶養者認定において「労働契約(雇用契約)で定められた賃金から見込まれる年間収入」が判定の基礎となります。
ポイントは、労働条件通知書等に記載のない時間外・休日労働の割増賃金(残業代)は原則として算定に含まれないという点です。つまり契約書に記載された基本給・諸手当・所定内賃金の年間合計が基準額(一般的には130万円)を下回っていれば、繁忙期の残業等で一時的に実収入が基準額を超えても、原則扶養にとどまることができます。
この新ルールが機能する大前提は、「雇用契約書(労働条件通知書)の記載内容が実態と一致していること」です。
2.2つの制度が交差する「実務上のリスク」
無期転換ルールと扶養認定ルールは、どちらも「雇用契約書の記載内容」が正確かどうかを問います。この共通点から、以下のようなリスクが生じます。
リスク① 無期転換後の労働条件通知書の記載もれ・ずれ
有期雇用の通算契約期間が5年を超える際、無期転換後の労働条件を書面で明示しなければなりません。このとき、転換後の時給や所定労働時間を変更する場合は特に注意が必要です。
転換後の賃金が記載された新しい労働条件通知書が交付されていない、あるいは転換前の有期契約時の金額のままになっていると、被扶養者が保険者に提出する書類の根拠が不明確になります。2026年4月以降、保険者は労働条件通知書等を主な根拠書類として確認を行うため、「最新の書面がない」という状況が認定トラブルに直結します。
リスク② 契約更新のたびに通知書を更新していない
毎年や半年ごとに有期契約を更新している場合、最初の契約書がそのまま使い回されているケースがあります。途中で時給が改定されていたり所定労働日数が変わっていたりしても、書面が更新されていないと実態と乖離が生じます。
2026年4月以降、保険者は「労働契約の更新・労働条件の変更があった都度、変更内容が分かる書面の提出を求める」こととなっています(連名通知第2項)。契約更新の都度、適切に書面を交付・保存していない会社は、従業員から「書類が出せない」という相談を受けることになります。
リスク③ 無期転換で処遇を改善した場合の扶養外れ
無期転換を契機に時給を引き上げたり所定労働時間を増やしたりするケースがあります。これ自体は望ましいことですが、
- 転換前は年間収入が130万円未満(扶養内)だったパート従業員が、
- 転換後の労働条件通知書の記載内容で年間収入を計算すると130万円以上になる
という状況が生じることがあります。この場合、従業員は扶養から外れる必要がありますが、「契約が変わっても収入はそんなに変わらないから大丈夫だろう」と思い込んでいるケースも少なくありません。
事前に無期転換後の労働条件通知書の内容をベースに年間収入を試算し、従業員に伝えることが企業側に求められる実務対応となります。
リスク④ 同一労働同一賃金対応での待遇変更が扶養認定に影響
パートタイム・有期雇用労働法(同一労働同一賃金)への対応として、諸手当(通勤手当・皆勤手当等)を新たに支給するようにした企業もあります。
注意すべきは、通勤手当は所得税法上非課税でも、健康保険の扶養認定における「年間収入」には全額算入されるという点です。通勤手当の新規支給・増額によって、労働条件通知書に記載される収入が増え、それが扶養判定に影響することがあります。同一労働同一賃金対応の書面整備と並行して、扶養認定への影響も確認しておく必要があります。
3.企業・人事労務担当者が取るべき具体的対応
STEP 1:対象労働者の現状把握
- 有期雇用で通算3年以上勤務している従業員を抽出し、無期転換申込権の発生時期を確認する
- 被扶養者として家族の健康保険に加入しているパート・契約社員を把握する
- 両方に該当する従業員(無期転換が近く、かつ配偶者等の扶養に入っている)を特定する
STEP 2:雇用契約書(労働条件通知書)の点検と整備
- 最新の就労実態(時給・所定労働時間・手当の内容)と現行の労働条件通知書の記載が一致しているか確認する
- 無期転換申込権が発生する更新タイミングに向けて、転換後の労働条件を明記した新しい通知書の準備をする
- 更新のたびに必ず書面を発行・署名・保管するフローを社内で徹底する
【チェックポイント】雇用契約書に記載すべき主な事項(有期雇用労働者)
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STEP 3:扶養認定への影響の事前確認と従業員への説明
- 無期転換後の労働条件通知書の記載をもとに、年間収入(基本給+所定内手当+通勤手当)を試算する
- 基準額(一般130万円)に近い従業員については、転換前後で収入がどう変わるかを説明する
- 扶養を外れる可能性がある場合は、被扶養者本人と家族(被保険者)へ事前に周知する
| 【注意】2026年4月以降の主な必要書類
被扶養者認定・継続確認の際に保険者(協会けんぽ・健康保険組合)から求められる主な書類: ・雇用契約書または労働条件通知書(時給・所定労働時間・手当等が明記されたもの) ・給与収入以外の収入がない旨の申立書(被扶養者本人が記載) ※無期転換や更新により労働条件が変わった場合は、変更後の書類が必要 |
4.定年後再雇用の有期契約—無期転換特例と扶養認定の関係
60歳定年後に有期労働契約で継続雇用される労働者については、事業主が都道府県労働局長の「第二種計画認定」を受けることで、定年後の継続雇用期間中は無期転換申込権が発生しないという特例があります(有期雇用特別措置法)。
ただしこの特例は、あくまで「無期転換申込権の発生を猶予する」ものです。労働条件通知書の整備義務や、2026年4月以降の扶養認定における「雇用契約書ベースの判定」には関係なく適用されます。
定年後再雇用のパート・嘱託社員についても、60歳以上の被扶養者の基準額は年間180万円(月額換算15万円)となっており、雇用契約書の記載をもとに判定されます。第二種計画認定を取得していても、書面管理の徹底は同様に必要です。
まとめ——「雇用契約書の一元管理」が中小企業の労務リスク管理の要
有期雇用をめぐる法制度の整備が進み、「雇用契約書(労働条件通知書)の正確な記載と適切な管理」が企業に求められる水準はここ数年で大きく上がっています。
今回解説した2つの制度改正が示すのは、一枚の雇用契約書が、
- 無期転換ルール(労働契約法)の義務履行
- 2026年4月からの健康保険扶養認定の判定根拠
という二重の役割を担うという事実です。
とくにパートや契約社員を多く雇用する中小企業では、「毎回同じ書類を使い回す」「口頭で条件を変えてしまっている」というケースが見受けられます。このような運用を続けていると、無期転換の明示義務違反と扶養認定トラブルが同時に発生するリスクがあります。
まずは現在雇用している有期契約労働者の契約書が最新の状態になっているかを確認することから始めてください。不明な点や個別のケースへの対応については、お気軽に当事務所にご相談ください。
| ※ 本記事は2026年3月時点の情報に基づいています。法令・通達の改正等により内容が変更される場合があります。個別のケースについては、ご加入の健康保険組合・協会けんぽ、または当事務所にご確認ください。 |



