【令和7年法改正】50人未満の事業場も義務化!
お知らせ
「小規模事業場ストレスチェック制度実施マニュアル」(令和8年2月)公表のポイント
令和7年(2025年)5月に公布された改正労働安全衛生法により、これまで努力義務とされていた「労働者数50人未満の事業場」におけるストレスチェックの実施が義務化されることになりました(施行は公布から3年以内の政令で定める日)。
これに伴い、厚生労働省より小規模事業場に特化した「小規模事業場ストレスチェック制度実施マニュアル」(令和8年2月)が公表されました。本記事では、このマニュアルに基づき、小規模事業場の事業主様が押さえておくべき制度導入のポイントを、社会保険労務士が分かりやすく解説します。
1. ストレスチェック義務化の背景と目的
ストレスチェック制度の最大の目的は、「メンタルヘルス不調の未然防止(一次予防)」です。制度の大まかな流れは、労働者がストレスチェックを受検し、高ストレス者に対して医師の面接指導を行い、その結果をもとに就業上の措置や職場環境の改善につなげるというものです。
近年、精神障害の労災支給決定件数が増加傾向にあり、小規模事業場においても多数発生していることが義務化の大きな背景となっています。従業員がメンタルヘルス不調で休業することは、企業にとって大きな損失となります。厚生労働省のマニュアルでは、ひとたびメンタルヘルス不調にさせてしまうと、その病休期間は平均で約3か月、復職後に再び病休になる割合も約半数に上ると示されています。特に人材不足が深刻な小規模事業場においては、こうしたリスクへの対応が重要な経営課題です。
また、ストレスチェックの効果について、厚生労働省が行った効果検証事業では、受検した労働者の約7割が「自身のストレスが分かったこと」を有効と評価しており、医師の面接指導を受けた労働者の過半数が「対面で医師から面接を受けたこと」を有効と評価しています。学術論文等においても、ストレスチェックと職場環境改善によって心理的ストレスの低下や生産性向上の効果が認められています。
【ポイント】 50人未満の事業場でも実施は義務となりますが、労働基準監督署への実施結果の報告は不要です。報告義務があるのは「常時使用する労働者が50人以上」の事業場に限られます。
2. 誰が「実施義務の対象者」になるのか
ストレスチェックの対象となる「常時使用する労働者」とは、以下の2つの要件をいずれも満たす者です(契約の名称や国籍を問いません)。
- 期間の定めのない労働契約で使用される者(または契約期間が1年以上の者・1年以上使用されることが予定・実績のある者)
- 1週間の労働時間数が、同種業務に従事する通常の労働者の4分の3以上であること
なお、週の労働時間が通常の労働者の4分の3未満であっても、おおむね2分の1以上の労働時間の者にも実施することが望まれます。また、派遣労働者に対するストレスチェックは、派遣元事業者に実施義務があります。
重要な点として、ストレスチェックは健康診断と異なり、労働者に「受検義務」は課されていません。しかし制度の実効性を高めるためにも、できるだけ全対象者が受検することが推奨されています。
3. 小規模事業場における実施の4つのポイント
マニュアルでは、小規模事業場に即した現実的かつプライバシーに配慮した実施体制が示されています。
① 実施は「外部機関への委託」が推奨
小規模事業場では社内の人間関係が近く、従業員が「社長に結果を知られるのではないか」と不安を抱きやすいため、原則として外部機関(健診機関など)への委託が推奨されています。
外部委託する場合、事業場内には「実務担当者」を選任するだけで足ります。この担当者は個人の健康情報を取り扱わないため、社長や人事担当者など、人事権を持つ方が担うことも可能です。実施者(医師・保健師等)および実施事務従事者は委託先の外部機関に配置されます。
委託先を選定する際は、事前に外部機関から「サービス内容事前説明書」を提出してもらい、実施体制・実施方法・料金体系・情報管理の方針等をしっかり確認することが重要です。厚生労働省のマニュアルには「サービス内容事前説明書(モデル例)」も収録されています。
なお、現在の定期健康診断の委託先健診機関がストレスチェックも扱っている場合、定期健康診断とセットで運用することも選択肢の一つです。
② 医師の面接指導は「地域産業保健センター」を無料で活用
高ストレス者と判定された従業員から申出があった場合、事業者は医師による面接指導を行う義務があります。50人未満の事業場では産業医の選任義務がないため、最寄りの「地域産業保健センター(地産保)」に依頼することで、無料で医師の面接指導を受けることができます。
地産保は、厚生労働省所管の独立行政法人・労働者健康安全機構が運営する支援機関で、全国約350か所(概ね労働基準監督署単位)に設置されています。ストレスチェックに基づく面接指導のほか、定期健康診断結果に対する医師の意見聴取など、労働安全衛生法に関する産業保健サービスを無料で受けられます。
【注意】 地産保ではストレスチェック自体の実施は行っていません。また、大企業の営業所等で本社の産業医等の協力が得られる場合は利用できないことがあります。
③ 集団分析と職場環境改善
個人のセルフケア支援にとどまらず、職場ごとのストレス要因を集団で分析し、環境改善につなげることが努力義務とされています。調査票として「職業性ストレス簡易調査票」(57項目または簡略版23項目)の使用が推奨されており、「仕事のストレス判定図」を用いた集団分析が適当とされています。
ただし、集計・分析の対象人数が「10人(受検者数)未満」となる場合は、個人が特定されるおそれがあるため、原則として事業者は集団分析結果の提供を受けてはなりません。小規模事業場では特に注意が必要です。集団分析結果は経年変化の把握のために5年間の保存が望まれます。
④ プライバシー保護と不利益取扱いの禁止
個人のストレスチェック結果は「要配慮個人情報」として極めて機微な情報であり、本人の事前の同意がなければ事業者が取得することはできません。結果の保存は外部委託先において行い、事業場内では取り扱わないことが推奨されています。
また、法律および指針により、以下のような不利益な取扱いは固く禁止されています。
- ストレスチェックを受けないことを理由とした不利益な取扱い(懲戒処分等)
- ストレスチェック結果の提供に同意しないことを理由とした不利益な取扱い
- 面接指導の申出をしたことを理由とした不利益な取扱い
- 面接指導の結果を理由とした解雇・退職勧奨・不当な配置転換・契約更新拒否等
4. 実施に向けた準備ステップ
義務化に向けた円滑なスタートを切るため、以下の準備を進めましょう。
STEP 1|事業主による方針の表明
制度導入の目的(メンタルヘルス不調の未然防止であること、個人結果は本人の同意なく会社が知ることはないこと等)を従業員に表明し、安心して受検できる環境を整えます。マニュアルには方針表明のメッセージ例も掲載されています。
STEP 2|関係労働者の意見聴取
実施体制・実施方法等について、従業員の意見を聴く機会を設けます。定例のミーティングや朝礼等を活用し、できるだけ様々な現場・立場の従業員から意見を聴くことが重要です。
STEP 3|社内ルールの作成・周知
意見聴取の結果を踏まえ、「実施体制・実施方法・記録の保存・情報管理・不利益取扱いの禁止」等についての社内ルール(規程)を定め、従業員に周知します。マニュアルには「ストレスチェック制度実施規程(モデル例)」が巻末資料として収録されており、自社の状況に合わせてアレンジして活用できます。
STEP 4|実務担当者の選任・委託先の選定
社内の実務担当者を選任し(衛生推進者・安全衛生推進者が望ましい)、外部委託先のサービス内容・料金・情報管理体制等を比較検討の上、委託先を決定します。あわせて、面接指導の依頼先(外部機関または地産保)も事前に確定しておきましょう。
5. 自社実施 vs 外部委託:選択のポイント
外部委託が推奨されていますが、自社で実施することも可能です。ただし自社実施の場合は、実施者(医師・保健師等)の確保や、厳格なプライバシー管理体制の構築が必要となるため、運用負担は大幅に増加します。以下に主な違いをまとめます。
| 項目 | 外部委託(推奨) | 自社実施 |
| 実施者・実施事務従事者 | 委託先外部機関が担う | 自社で医師・保健師等を確保する必要あり |
| 個人情報の取扱い | 外部機関で完結。社内担当者は健康情報不要 | 社内での厳格な管理体制・守秘義務徹底が必要 |
| プライバシーリスク | 低い(外部管理) | 高い(誤配布・漏洩リスク、従業員の不安) |
| 事務負担 | 比較的少ない | 結果通知・申出勧奨等の事務負担が大きい |
| 費用 | 委託料金が発生 | 内部コスト(人件費・システム等)が発生 |
おわりに
ストレスチェックの義務化は、単なる法令対応ではなく、従業員がいきいきと働ける職場づくりの絶好の機会です。メンタルヘルス対策に積極的に取り組むことは、生産性の向上・人材の確保と定着・企業価値の向上といった持続的な経営にもつながります。
「何から始めればいいか分からない」「自社に合った社内規程を作りたい」「委託先選定の基準を知りたい」など、制度の導入に関してご不明な点がありましたら、当事務所までお気軽にご相談ください。専門家として、実態に合わせた無理のない運用体制づくりをサポートいたします。
参考:厚生労働省「小規模事業場ストレスチェック制度実施マニュアル」(令和8年2月)
https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_69680.html
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この記事は、
社会保険労務士岩元事務所が、解説しています。
最終更新日:2026年2月27日
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