「介護職員の賃上げ・職場環境改善支援事業」Q&Aの重要ポイントを徹底解剖
お知らせ
~申請期限、対象経費、ハードウェア購入の可否など、現場の疑問を解消~
令和7年12月からスタートしている国の新たな支援策「介護分野の職員の賃上げ・職場環境改善支援事業」。 すでに多くの事業所様で準備を進められていることと思いますが、令和8年1月21日、厚生労働省より本事業に関する具体的な「Q&A(第1版)」が公表されました。
今回のQ&Aでは、申請期限の考え方、賃金改善の実施時期、対象となる経費の範囲(特にパソコン等は対象になるのか?)、そして本部職員の取扱いや証拠書類の保存についてなど、実務担当者が最も気になっていた点がクリアになっています。
本記事では、このQ&Aの内容に基づき、社会保険労務士の視点から、申請・運用の際に特に注意すべきポイントを詳しく解説します。
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1. 申請スケジュールと賃金改善のタイミング
まず、手続き面で最も重要なスケジュールについてです。
提出期限は都道府県ごとに異なります
Q&A(問1)において、計画書や実績報告書の提出期限は「各都道府県において、事業スケジュールを踏まえ、適切に設定すること」と明記されました。 全国一律の締切日はありません。事業所が所在する都道府県のホームページや通知を必ず確認し、独自の締切に遅れないよう十分にご注意ください。
賃金改善はいつまでに行うべきか?(問2)
本事業は「緊急的な対応」として実施されるものです。そのため、以下のルールが示されました。
• 令和8年3月末までに補助金の支給を受けた場合:
◦ 令和8年3月末までに賃金改善・職場環境改善を実施する必要があります。
• 令和8年4月以降に補助金の支給を受けた場合:
◦ 各自治体が定める実績報告書の提出期限までに実施する必要があります。
ただし、Q&Aでは「可能な限り速やかに実施していただきたい」と付記されています。後追いで支給する計画であっても、できる限り早期に職員へ還元することが、制度の趣旨に沿った対応と言えます。
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2. 補助金の対象となる職員の範囲
誰を対象にできるのか、という点は非常に重要です。今回のQ&Aでかなり柔軟な解釈が可能であることが確認されました。
職種の範囲は非常に広い(問11)
「介護従事者」の定義については、介護職だけでなく、以下の職種も含まれることが明示されました。
• 医師、看護師、リハビリ職(PT/OT/ST)
• ケアマネジャー、相談員
• 管理栄養士、調理員
• 事務職 など
法人本部の職員も対象になるか?(問6)
ここが大きなポイントですが、法人本部の職員であっても、「補助金の対象である介護サービス事業所等における業務を行っていると判断できる場合」には、賃金改善や職場環境改善の対象に含めることができます。 例えば、人事部や経理部で現場のサポートを行っている職員なども、実態に応じて対象になり得ます。ただし、補助金対象外の事業所(例えば対象外の有料老人ホーム等)専属の職員などは含めることができません。
訪問看護ステーションの「医療」と「介護」の併給(問10)
医療・介護の両方のサービスを提供している訪問看護ステーション等については、医療分野の賃上げ支援補助金と、本事業(介護分野)の補助金の双方を申請することが可能です。
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3. 「職場環境改善経費」の使い道と注意点
本事業の大きな特徴として、補助金の一部(月額4,000円相当部分)を、賃上げではなく「職場環境改善」の経費に充てることが認められています。しかし、ここには重大な落とし穴(制限)があります。
○ 対象となる経費(問13, 14, 15)
職場環境改善経費として認められる主なものは以下の通りです。
1. 研修費: 職場環境改善に資する研修であれば幅広に対象となります。
2. 募集経費: 介護助手等の求人広告費、求人チラシ印刷費、人材紹介会社の紹介手数料も対象となります。
3. 業務改善・見える化の費用: 業務の洗い出しや棚卸し、委員会立ち上げ、外部専門家の派遣費用、会議費など。
× 対象とならない経費(重要!)(問16, 17)
最も注意すべき点です。PC、タブレット端末、介護ロボットなどの「機器購入費用」には充当できません。
Q&A(問17)では、「PC端末等の購入にかかる経費は対象経費に含まれるか」という問いに対し、明確に「PC端末等の機器の購入費用は対象経費として適当ではない」と回答されています。 ICT機器や介護ロボットの導入を行いたい場合は、本事業ではなく、別途設けられている「介護テクノロジー導入・協働化等支援事業」などの補助金を活用する必要があります。混同しないようご注意ください。
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4. 賃金改善額の計算方法と法定福利費
賃上げを実施する際の実務的な計算についても指針が示されています。
法定福利費の事業主負担分を含めてOK(問7)
処遇改善加算と同様に、賃金改善に伴って増加する法定福利費(社会保険料や労働保険料)の事業主負担分を、賃金改善額に含めることが可能です。
計算方法の簡素化(問8)
実績報告時に、「賃金改善に充てた額」が規定の額以上になっているかを確認する必要があります。この計算において、事務負担軽減のため、以下の計算式を用いることが認められました。
• 計算式: (交付された補助総額)×(全体の交付率に対する「賃金改善経費分」の交付率の割合)
端数は四捨五入となります。この計算により算出された額以上を、確実に賃金改善(+法定福利費増)に充てる必要があります。
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5. 証拠書類の保存と運用ルール
申請時の添付書類は原則不要、ただし保存義務あり(問5)
申請書や実績報告書を提出する際、賃金台帳や就業規則、研修計画書などの証拠資料を一律に添付する必要はありません。 しかし、これは「作らなくていい」という意味ではありません。各要件を満たしていることを証明する根拠資料(下表参照)を事業所内で整備し、2年間保存しておく義務があります。都道府県から求められた場合は速やかに提出しなければなりません。
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要件
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保存すべき根拠資料の例
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処遇改善加算の算定
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加算の計画書
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処遇改善加算Ⅳ準拠要件
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就業規則(賃金規定)、研修計画、実施証明資料など
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ケアプランデータ連携
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使用画面のスクリーンショット(撮影日時がわかるもの)
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生産性向上推進体制加算
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体制届出の写し
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特に「ケアプランデータ連携システム」の導入を要件とする場合、「撮影時点がわかる形でのスクリーンショット」が必要となる点は見落としがちですのでご注意ください。
債権譲渡(ファクタリング)は不可(問18)
本補助金は、全額を職員への還元や環境改善に使う性質のものであるため、債権譲渡(ファクタリング)の対象とすることは適当ではないとされています。 通常、介護報酬をファクタリングで受け取っている事業所であっても、この補助金については、債権譲渡を行っていない口座(国保連登録口座または事業所口座)へ直接振り込んでもらう必要があります。
計画変更の柔軟性(問22)
当初の計画書で「職場環境改善(研修や採用費)」に使うとしていた分を、事情により「賃金改善(ボーナス等)」に切り替えることは可能です。その場合、計画書の再提出を一律に求めることはせず、実績報告書で正しい使途(賃金改善費)として報告すれば良いとされています。 逆に、賃金改善から物品購入へ変更する場合は、先述の「ハードウェア不可」の制限などがあるため、慎重な判断が必要です。
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6. その他の重要Q&A
• ケアプランデータ連携システムの定義(問9): 国保中央会のシステムだけでなく、厚生労働省が同等の機能を有すると認めた民間システム(カナミッククラウドサービス、ケアプランデータ連携サービス(富士通四国インフォテック)、「でん伝虫」データ連携サービス(コンダクト))も対象となります(令和8年1月21日時点)。
• 地域包括支援センター(問12): 介護予防支援事業者の指定を受けていれば対象となります。
• 他の補助金との併用(問23): 「重点支援地方交付金」による賃上げ支援などと併用(上乗せや横出し)することは可能です。ただし、同一の経費(例えば同じ1万円の賃上げ分)に対して二重に補助を受けることはできません。
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まとめ:社労士からのアドバイス
今回のQ&Aにより、実務の詳細が明確になりました。特に、「パソコンやタブレットの購入は対象外」という点は、誤って購入してしまうと後で補助金が認められないリスクがあるため、経営判断において非常に重要です。
一方で、人材紹介手数料が対象となることや、本部職員への配分が認められること、計画変更が柔軟であることなどは、事業者にとって使い勝手の良い要素と言えます。
本事業は、令和8年度の報酬改定を待たずして人材流出を食い止めるための「緊急策」です。 申請期限は都道府県によって異なりますが、年明けから年度末にかけて事務が集中することが予想されます。
• 自社の締め切りはいつか?
• 賃金規程の改定は必要か?
• 「賃金改善」にするか「環境改善(採用・研修)」に充てるか?
これらの点について、まだ方針が固まっていない事業所様は、早急に検討を進めることをお勧めします。当事務所では、本補助金の申請サポートや、要件となる就業規則・賃金規程の整備、処遇改善加算の取得支援を行っております。不明な点がございましたら、お気軽にご相談ください。
※本記事は令和8年1月21日時点の情報を基に作成しています。最新の情報は各都道府県の公式発表をご確認ください。
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社会保険労務士・行政書士岩元事務所
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